今後の焦点は「パキスタンの核兵器がアルカィーダにわたる恐れ」である。
12月27日、ラワルピンジで演説を終えて車に乗り込み、群集に手を振ろうと窓を開けたところを狙撃された。彼女の父親は軍によって処刑され、二人の兄弟は、一人が狙撃され、ひとりは海外でテロに倒れた。
まるでインドのガンジー家のように、南アジアの名家を襲うのろわれた政治の血。
ブッドが首相時代にパキスタンは核兵器を密かに開発していた。が、「軍は首相のわたしにも、そのことを知らせなかった」と不満たらたらの言辞を数年前に『TIME』で述べていたことを思い出した。
ブッドと軍とは宿命の対立関係だったのである。
パキスタンの問題点は、米軍のテロ対策基地を提供しておりながらも、軍人の多くがパシュトン族であり、かつ「英米留学組の西側の価値に染まった民主主義鼓吹主義者」(ブッド前首相のこと)を忌み嫌う。
厳格なイスラムと、中世の部族社会がない交ぜになったようなパキスタンで、デモクラシーは危険思想であり、「共同体の破壊者」であると認識されているのではないか。
くわえてパキスタン軍の情報部はアルカィーダにきわめて同情的であり、過激イスラム思想の持ち主が多い。
パキスタン軍の情報部にとって敵は、アルカィーダではなく、米国であり、ブッドである。パキスタン国民はイスラム過激派でなく、穏健派が多い。おそらくブッド暗殺は軍情報部が絡んでいるのではないか。
▲パキスタン軍人のアイデンティテイとは何か
パキスタン軍は地政学的にインドを憎み、したがってその背後にある中国に親しみを感じている。
半世紀以上の長きにわたる中国パキスタン軍事同盟は、日米安保条約より長い。
さて、パキスタンは核兵器保有国である。数発の核弾頭をどこかに隠しているが、この警備のためのパキスタン軍内の特殊部隊訓練などに米国は一億ドルを拠出してきた。
パキスタンの核兵器が、テロリストやアルカィーダや、イスラム過激派にわたるような時代となれば、世界は暗黒になる、と欧米は考えている。パキスタンと中国は、そうは考えていない。
米国と中国との間に挟まりつつ、綱渡りをつづけるムシャラフ大統領は、ところで軍の全面的支持を得ているわけではない。
だからこそ大統領再選にあたって陸軍参謀総長を兼務しなければならなかったのである。
イスラム過激派にとって次の標的は、北京とワシントンの同盟者、このムシャラフ大統領であろう。
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1331 ブッド暗殺は予想されていた 宮崎正弘

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