1357 ハイテク日本を脅かす法的不備 宮崎正弘

防衛庁からイージス艦の機密が漏洩した事件では、日本に「スパイ防止法」がないために公務員法や窃盗罪などで逮捕するしか法的根拠がなかった。日米安保条約の同盟国=米国は、この情報漏洩状況に怒りを隠しきれないらしい。
しかしハイテク立国=日本から技術情報を盗み出すのは造作もないことである。日本人は情報の安全保障にまったく無頓着、前線にいる企業戦士いがい、問題の深刻さが分からない。なぜなら特許公報は申請から十八ヶ月後にすべて公開され、それを外国語に訳して持ち出しても合法だからである。
民生用ハイテクのコインの裏側は軍事先端技術である。したがって米英仏独など工業先進国では「秘密特許制度」があって微妙な防衛技術に直結する特許は公開を制限している。
筆者は83年に『日米先端特許戦争』(ダイヤモンド社)という本を書いて、日本にも秘密特許制度が必要ではないかと問題を定義したことがある。
特許を所管する当時の通産省は嗤って聞く耳をもたず、また民間企業の特許専門家の親睦団体で講演しても、「そういえば、戦前そんな制度がありましたね」と関心の薄かったこと!
ようやく最近になって経済産業省は「技術流出を防止するための新法」に動き出し、「技術情報等の適正な管理の在り方に関する研究会」を設置した。軍事特許に非公開制度を設け、外国のスパイやテロリストの閲覧を防ぐ目的である。
これまでは法的不備を補うため企業の特許本部はライバル他社、外国などに情報を盗まれないために申請上の「技術」を行使してきた。
つまり本丸を隠して周辺の特許を全部抑えることにより肝要な特許に他者が近寄れなくするという高等な戦術を用いてきたのだ。
他方、米国からは「サブマリン特許」なる秘密制度によって日本企業が米国で申請した特許が、しばしば「公開していない米国の秘密特許と同じ」とクレームを付けられ、法外な特許料を毟られてきた。
ハイテクと独創技術で経済が繁栄している日本は、米国の安全保障の庇護をうけている裡に、技術がもつ軍事要素という側面をすっかり忘れていた。
通商政策に関してもうひとつ深刻な問題がある。ハイテク日本が、ますます技術を高めれば、たとえばハイブリッド・カーの高性能エンジンがそうであるようにレアメタルの戦略備蓄という問題が浮上した。
これも私事ながら筆者は82年に『もうひとつの資源戦争』(講談社)を上梓したおりコバルト、プラチナなど稀少な戦略物資の国家備蓄を提唱した(それまで国家備蓄は石油しかなかった)。
直後に日米で専門家を呼んだシンポジウムなども開催され、国会で問題となって翌年から数品目に限って二十日分ほどの備蓄が始まった。
数量がすくなく、充分なシステムとは言えないが、国家安全保障の戦略的感覚があれば当然行っておくべき事柄だった。こうしてハイテクの躍進に追いつけない法的不備が最近とみに露わになっている。(「北国新聞」から転載)
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(1月4日現在1360本)

コメント

タイトルとURLをコピーしました