1396 戦略なき”ガソリン代国会” 古沢襄

軍事用語だが「戦略論」と「戦術論」が、戦後日本でもよく使われている。”戦略なき日本政治”とか”戦略なき日本経済”といった類。戦略論が正しくて戦術論は視野が狭いという見解も横行している。
だが第一線で敵と対峙している部隊長が天下国家の戦略を論じていたら”いくさ”にならない。目前の敵にうち勝つためには、局地戦に勝つ戦術論こそ必要になる。これと裏腹に全軍を率いる参謀本部が局地戦の戦術論にとらわれていたら大局を見失う。
最近の政界をみていると民主党の国会戦術には奇襲・奇策の戦術論が目立つ。これに応じる自民党も戦術論の対応が多い。国の舵取りは大きな戦略論が根底になくてはならぬ。自民党大会にも民主党大会にも、その戦略論でもの足りない。
池田内閣当時に自民党の石田博英氏が「保守政治のビジョン」という論文を中央公論に発表した。(1963年)池田内閣が推進した高度経済成長政策によって都市化が進み、都市と農村の産業構造がダイナミックな変化を遂げることを予測して、旧態依然たる自民党政治を続けていたら、野党の社会党が政権をとると警鐘を鳴らした。
その前年に社会党の江田三郎氏が「江田ビジョン」を発表して、狭義の社会主義政党から政権を奪取できる国民政党への脱皮を唱え、党内左派から猛反撃を受けている。この「江田ビジョン」は左派の反撃で葬り去られ江田氏は憤死した。
いずれも45年後の今日からみれば、正しい戦略論だったことが分かる。抵抗闘争に終始した社会党の戦術論が破綻して、今では社会党そのものが消滅している。
生産者重視型の自民党政治も破綻寸前にある。福田首相が党大会で消費者重視の政治への脱皮を唱えたが、その戦略論は間違っていないと思うが、具体的な道筋を示す戦術論がよく見えない。
自民党の一党支配が長期にわたって続いたのは、民社党が唱えた福祉国家政策を借用して、生産者重視型の政策と併用実行してきたとよく評される。両論併記の政策だが、これにも限界がある。
自民党も民主党も生活者が第一のスローガンを掲げたが、選挙目当ての戦術論の匂いがしてならない。それを実行する財政的な裏付けが見えないからである。ガソリン代が25円下がるというのは単なる戦術論に過ぎない。
大都市の住民はガソリン代が下がるのは大歓迎である。東京はじめ都市住民の票集めには有効かもしれないが、財源が失われる地方住民にとっては懸念材料になる。民主党は通常国会を”ガソリン代国会”と位置づけている。戦略なき「戦術国会」でチャンバラ劇を演じられては、国民の方が白けてしまう。
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