骨髄腫の告知を受けてから四年目のお正月を迎えた。幸いにしてまだ制ガン剤を服用せずにいる。その代わり血液内科、腎臓内科の専門医とホームドクターという三人の医師から毎月、厳しい検査を受けている。
三人の医師はお互いに診療データをパソコンで交換しながら私の病状を監視していてくれている。岩波新書に椎貝達夫著「腎臓病の話」(2007年10月刊)がある。私は三十五歳で腎臓病になって以来、それが原因で高血圧症に悩まされてきた。
群馬大学医学部出のホームドクターに紹介されて椎貝医師の診療を受けたのが十五年前。「日本では五本の指に入る腎臓病の権威です」とホームドクターに教えて貰ったが、当時は取手協同病院の院長。今も名誉院長で毎週、患者の診療に当たっている。
「奥さんを連れてきなさい」と言われて夫婦で診療を受けるはめとなったが、その時に食事療法を中心とした腎不全治療 「取手方式」というものがあると知った。腎臓病の治療には食事を作る奥さんの意識改革が必要だと、患者の私よりも女房がたっぷり絞られた。
人間の身体は約60兆の細胞から成り立っているという。また毎日3000個ぐらいの悪性細胞が生まれるので、これを退治するキラー細胞が働いている。これが人体のメカニズムなのだが、高齢者になるとキラー細胞の働きが弱まってくる。
病気になると即効性のある治療方法を求めるのが人の常だが、私の実体験でいうと一に病気の早期発見、二に気長に治癒をはかることに尽きる。社会で活躍している時には、このいずれも困難な面があるのだが、第一線から引退して十年余り、人体の自然治癒力を信じてやってきている。
ホームドクターが血液検査で骨髄腫の疑いを発見してくれたのが四年前。腎臓病と高血圧症の治療をしてくれていたのだが、尿からでるM蛋白の数値をみて、一度、専門医による骨髄窄刺を受けてみないかと言われた。腎臓生検や骨髄窄刺は、本人の同意が必要とする厳しい検査。
多発性骨髄腫は多くの臓器に影響を与えるため様々な徴候が発生する。高カルシウム血症(Calcium)、腎障害(腎不全)(Renal failure)、貧血(Anemia)、骨の損傷(Bone lesions)など。発性骨髄腫に侵された骨をレントゲン撮影すると、骨に穴が開いているように見えるという。
多くの場合は骨の痛みという自覚症状が出てから、骨髄窄刺によって骨髄腫が発見されている。私の場合は自覚症状がまったく無い段階で骨髄窄刺を受けて、骨髄腫の初期の初期という告知を受けている。早期発見だったわけである。
昨年秋に十日間ほど入院して、二度目の骨髄窄刺を受け、同時に腎臓生検も行った。骨髄窄刺は痛い思いをするが、検査が終わってしまえば何ということもない。しかし腎臓生検は背中から針を四カ所も刺して、腎臓の組織を採取するのだから、検査後は十数時間も寝返りすら出来ない絶対安静を強いられた。腎臓生検だけは二度とやりたくない。
しかし驚いたことには腎臓病は完全に治癒していた。椎貝院長による腎不全治療 「取手方式」が成功していた。高血圧も140-80で高値安定している。これは七十六歳という高齢だから仕方ない。
でも腎臓病の専門医には、これからも通わねばならない。骨髄腫が進行すると腎臓に悪影響を及ぼすからである。完全に治癒している腎臓病を定期的に検査する必要が新たに生まれている。血液内科と腎臓内科の専門医の検査を毎月のように受けることになった。
予防医学というのは患者の方も、その意識を持つことが必要である。そして面倒臭がらずに気長に診療を受ける気持ちが欠かせない。昨日も血液内科の診療を受けてきた。「骨髄腫の進行が止まっていますね」と言われて、その夜の晩酌はことのほか美味かった。自分の身体は自分で守らねばならない。医師はその手助けをしてくれるだけである。
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1424 骨髄腫の進行は止まっている 古沢襄

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