1426 台頭するアメリカの保守的傾向 古沢襄

米民主党のヒラリーとオバマが泥試合を演じれば、米共和党はジュリアーニでも勝てると昨年秋に来日した日系アメリカ人が言っていた。ユダヤ社会に滅法強い人物で、筋金入りの保守主義者なので話半分に聞いていた。
女性礼賛主義者の私は初の女性大統領を期待している。二年前にはヒラリーとライスの一騎打ちを期待していた。自分の国ではないから、多分に野次馬的な気分がある。アメリカ社会は少数のパワーエリートが牛耳っているという偏見を持っているので、ヒラリーになっても大きな政策変更がないと思っている。
旧友の松尾文夫氏のアメリカ大統領選分析では、アメリカの保守的傾向は変わらないとみている。一気にリベラル左派のアメリカにはならないという松尾分析論には、大いに賛成するものがある。
松尾氏は昨年のかなり早い時期から、ブッシュ政権内でネオコンが一斉に退場すると予見していた。ネオコンの退場は保守主義の衰退を意味しない。むしろ保守主義的な傾向が強まるという分析であった。同じ時期にキッシンジャーは、イラク情勢は年末までに沈静化すると予見していた。
今になってみると、これらの分析論は先見性に満ちた大胆なものであったが、この当時は少数意見であまり顧みられなかった。私自身も多分に懐疑的であった。半分は疑いつつも杜父魚ブログで松尾分析を数回にわたって掲載したら、帰米した松尾氏から電話があった。
私が共同通信社の役員を退任して以来、松尾氏とはしばらく会っていなかった。以前は赤坂の全日空ホテルの寿司屋で昼食をともにしながらアメリカ分析論を聞かされたものである。古い付き合いで、福岡支社長時代には帰米した松尾氏を招いて、アメリカ政治の現状と将来という講演会をセットしたことがある。
電話で「一度、東京に出ておいでよ。ご馳走するから・・・」と松尾氏は私に言ってくれたが、生憎、骨髄腫の告知を受けた私は、感染症に罹りやすい身体になっていたので、お断りせざるを得なかった。その代わり長電話になった。松尾氏の方も日本の政界分析を私の口から聞きたかったのであろう。
私が今、興味を持っているのは、共和党のジュリアーニが米大統領選の指名争いで大きく後退していることである。「ヒラリーとオバマが泥試合を演じればジュリアーニでも勝てる」という話のジュリアーニそのものが姿を消す可能性が濃厚となった。
このことはアメリカ政治で保守主義が強まった兆候ではないかと思っている。ネオコンが衰退したら保守主義が強まったという現象には興味がある。
日本でも同じような現象がある。安倍政治を支えた新保守主義的な傾向が、政権の挫折によって後退を余儀なくされた。代わって登場した福田首相はリベラルと称されている。だがリベラル左派なのだろうか?私は保守主義者だと思っている。
平沼赳夫氏ら新保守主義の側からみれば、福田氏はリベラル左派と映るかもしれないが、多少は左にスタンスを移した程度の保守主義者に過ぎない。むしろ小沢一郎氏の方が、政権奪取のために共産党や社民党とも共闘をはかるリベラル左派の衣を着ていると思う。
福田・小沢の大連立騒ぎも、この視点でみると面白い。リベラル左派が日本政治で定着するのか、しないのかということは、大連立騒ぎが再燃するかどうかで、ある程度は予見できる。衆参ねじれ現象を凌ぐための大連立なら成立する筈がない。
民主党の中でリベラル左派の旗手は菅直人氏であろう。道路特定財源の暫定税率を維持する政府案に賛成の意向を示している大江康弘参院議員に議員辞職を迫り、大江氏が断固として反発したのは、この脈絡でみると理解される。
来るべき総選挙で民主党が勝てば、リベラル左派の流れが加速し、負ければ民主党の保守派との党内対立が顕在化する。それは新保守主義を除外した保守主義者の政界再編に向かうのではないか。その意味で明日に迫った大阪府知事選挙の結果にも興味がある。
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