アジアの先進国家だった日本を滅ぼしたアメリカは、占領してみて先進国家とは名ばかりの貧しい国家という実像に驚いたのではないか。それが日米戦争の開戦時には対等以上の力を発揮して米英蘭を東南アジアから駆逐し大東亜共栄圏の盟主となった。
連合国の本格的な反攻までの短い期間だったが、石油もない、工業力も貧弱な日本が強大な軍事力を持って西欧に挑戦してきたことは、底知れぬ脅威と映った。だから占領軍の日本弱体化政策は徹底していた。当時のGHQの政策は日本を農業国家に変えることだったという。
廃墟の中で日本人が考えたのは、国家の再建は工業立国、貿易立国だったが、アメリカはそれを助けてくれたとは思えない。何よりも軍事国家・日本の再現を阻止することが、占領政策の柱となった。朝鮮戦争の勃発によって、急遽作った保安隊と称する日本の警察軍にも弾薬の管理は在日米軍が握っていた。
米ソ冷戦時代の吉田内閣の下で締結された日米安保条約は、日本で発生する内乱の鎮圧は在日米軍が出動する片務的な取り決めになっている。独立とは名ばかりの日本だった時代は安保条約の改定まで10年間も続いた。
条約改定でも日本の対米従属は変わらない。キッシンジャーは周恩来に「日米安保条約は日本が核武装させないのが狙い」と明言している。ユダヤ系アメリカ人のキッシンジャーの日本嫌い、ドイツ嫌いは有名だが、根底には日本やドイツの軍事力に対する恐怖感があるのだと思う。
それが現在では日米海軍力による軍事同盟こそがアジアの平和と安定に寄与すると米国防総省が言い出しているのだから隔世の観がある。それだけ日本はアメリカに対して従順な国家になったということであろう。どこまでもアメリカについていきます”下駄の雪”が日本のいつわらない姿といえる。アメリカは日本占領政策は成功したと思っているのだろう。
安倍前首相は戦後レジームからの脱却を唱えたが、アメリカの反応は芳しいものではなかった。むしろアジアで最高のバランス力を持つに至った日本の軍事力が、一人歩きすることに根強い危惧感がある。
アジア外交重視が看板の福田首相が渡米してブッシュ米大統領と首脳会談を行ったが、小泉・ブッシュの様な親密なムードは感じられない。ましてや中国に傾斜する民主党の小沢代表には警戒感を隠さない。
外交的には日本は日米関係を基軸としながらもソロソロと自立の道を歩みだそうとしている。だが軍事的にみれば日米軍事同盟は一層タイトなものになりつつある。敗戦後、六十年余りの日米関係で非常に難しい坂を日本は登っているというのが私の実感である。
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1434 外交的自立と軍事的結合 古沢襄

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