現在、産経新聞に連載されている秘録は、多方面にわたっての中国共産党史の検証があって、実に実に実に面白く且つ示唆に富んだ読み物となっている。
個人的にいえば、迫力ある小説の数冊分ほどの面白さ、発見を伴う。
あの時代を振り返りながらも、えっ、あのときはそうだったのか、と改め驚かされる歴史的考証がなされており、さすがにベテランのチャイナ・ウォッチャーである伊藤正・産経新聞中国総局長、目の付け所が違います。
評者(宮崎)自身も学生時代から中国革命史には尋常ならざる興味を抱いてきた。中国旅行が解禁になって、すぐに孫文の生家に行ったことがある。革命家孫文の神話がまだ生きていた時代である。
広東の主要道路はぬかるんでいて、孫文の記念館には駐車場さえなかった。
80年代後半だったが、まだ外貨兌換券という不思議な通貨が流通していた。大きな道路がやっと舗装されたばかりで、しかし車の通行量が少なく、いや、車そのものが殆どなかった。
タクシーは時速130キロで珠海の玄関口から中山市の郊外までぶっ飛ばした。日本の高度成長時代でも、あんな恐ろしい神風には乗ったことがなかった。
90年代後半からは、中国は軍事拠点をのぞいて、どこでも自由に行けるので、鄭義会議跡地、南昌蜂起記念館、延安など革命神話の場所を観察するのが、いまや“楽しみ”の一つでもある。
つまり共産党は、自分たちの敗走史、粛正史をいかに改ざんして展示しているのか。
さらに本書の中身は産経読者にとってはお馴染みだろうけれど、本書は解説にも注目である。
石平氏が書いているからだ。
トウ小平の改革開放によって四川省の片田舎から北京大学へ入学できた石平氏は、当初、その学生寮で大きな未来への夢を描き、トウ小平に感謝し、やがて天安門事件でトウ小平に失望し、民主中国を模索し、しかし現代中国の来歴とは、トウ小平がいなければ一歩の進歩もなく、したがって揺れ返しもなかったかを、実際の同時代の悲劇に遭遇した世代の感覚をもって回想し、コンパクトに総括している。
この解説を先に読んでから、秘録を読み直す手もある。
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