イラク情勢は米大統領選の争点ではなくなった。それは米軍増派による治安の改善策に反対した米民主党や一部メデイアも認めざるを得ない。これについて久方ぶりに登場した古森義久ワシントン特派員が明確に分析・指摘している。
【ワシントン=古森義久】イラクでの米軍増派による治安の改善と政治面での民族和解への前進が米国内でのイラク論議を変容させ、大統領選挙での議論の構図を大きく変えそうになってきた。イラクの軍事、政治両面での情勢好転が、米国内でこれまで「イラクでの失敗」を大前提にブッシュ政権を非難してきた民主党候補を論戦での守勢に立たせ始めたといえる。
イラク議会は2月中旬、(1)合計480億ドルにのぼる新予算案(2)10月1日をメドとする地方選挙の実施法案(3)フセイン元政権関係者などへの特赦法案-を可決した。いずれもこれまで困難とされてきた案件で、その妥結によりシーア、スンニ、クルドの各宗派間の和解は大幅に進むと期待されている。
米国の共和党大統領選候補ジョン・マケイン上院議員はこの3法案の可決を受けて「民主党のクリントン、オバマ両候補はなおイラクでの各宗派間の政治的和解がないとして早期の米軍撤退を求めているが、これら法案の可決はその和解の証だ。イラク情勢は軍事、政治両面で好転しており、期限つきの米軍撤退はその好転を突き崩す」と民主党側を批判した。
マケイン氏のこうした強気の発言の背後には、同氏が強力に支持したブッシュ政権のイラクへの米軍増派によって治安が大幅に改善されたという実績がある。現地の多国籍軍の発表では、昨年夏から今年1月までにイラク全土でのテロ攻撃は70%以上も減り、首都バグダッド周辺での宗派間の争いやテロ勢力による攻撃も約90%減った。
民主党はこれに対しブッシュ政権のイラク介入自体を失敗として非難してきたため、軍事面での情勢好転はほとんど論評せず、「政治的和解が進んでいないからイラク民主化は失敗」(民主党のナンシー・ペロシ下院議長)と断じる向きが大方だった。ところが今回、その政治面でも前進があったため、民主党側は論戦で守勢に立たされた観がある。
イラクでの政治面での前進については、ブッシュ政権のイラク政策を激しく非難してきたニューヨーク・タイムズでさえも2月14日の社説で「イラクでの(いくらかの)前進」と題し、「前進」という語にあえてかっこ付きで「いくらかの」という言葉を添えながらもそれを認めた。
同じ民主党寄りのワシントン・ポストも13日付社説で「イラクはゆっくりとだが、激しい混乱ではなく、安定に向かって動いている」と認めた。そのうえで同社説は民主党のオバマ、クリントン両氏ともに「イラクに関して時代遅れで独断的な見解を変えようとせず、イラクの変化した情勢が両候補の早期の米軍撤退構想に修正を必要にしたことを頑迷にも認めようとしない」と痛烈に批判した。
同社説はまた「米軍がイラク現地で成功をもたらしているちょうどその時期に、米国の国内政治に押されて期限をつけ、自動的に米軍を引き揚げようとすることは無謀であり危険だ」と論じた。
こうした民主党寄りの大手マスコミが相次いでイラク情勢の好転を認めただけでなく、民主党候補の早期撤退論に批判を表明するに至ったことは、米国のイラク論議に大きな変化が出て、大統領選挙でのイラク論争も基礎の構図が変わってきたのだといえよう。(産経新聞)
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1541 イラク情勢好転 大統領選議論に影響 古沢襄

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