欧米より企業成績が良いのに、なぜ日本株は下落するのか。次の超大国は本当に中国、インドへ移行するの。
▲英誌『エコノミスト』の「JAPiAN」特集
日本株がなぜ安いか、誰も正確な説明出来ていない。
企業の成績は上向きだが、日本人の心理は下向き、元気印は中国とインドへ去ったからか。英誌『エコノミスト』(2月23日号)はJAPANをもじって「JAPAiN」(煩う日本という造語)なる特集号をだした。
要するに世界情勢の適切な状況判断ができず、指導力のない政治家が馬鹿だからと結論したが、それは真理の一部でしかない。政治家だけに責任を押しつけるのは安直な論理的飛躍でもある。
基本に横たわるのは日本の独自精神の退嬰と主体性の喪失である。民主主義の爛熟から腐乱現象である。
英国は「ウィンブルトン方式」(世界選手権に場所を提供し、総合的効果を狙う)で金融街の老舗シティを世界の金融市場として「場貸し」した。
日本は場を貸して、さらにカネまで貸した(円キャリー・トレード)。だが株式市場から勢いがもぎ取られていた。
英国では人口七千万人に対して金融業で770万人が働いている。米国はNY州で全体労働総人口の15%が金融ビジネスに携わっている。
日本はと言えば、労働人口の3%も金融ビジネスに携わる人々がいない。
つまりグローバルな金融ビジネスからはほど遠い地点にあるのが東京市場であり、上場企業も少ないが、なんといっても海外の企業が日本に上場しないという意味で、あまりにもドメスティックである。
それなら何故、たとえばオランダの株式市場はドイツの鏡のような動きをするが、日本はNYの鏡以上に追随型なのか。国内要因で株価が変動せず、米国の株式の乱高下がそのまま日本に跳ね返るのか?これは世界七不思議の一つと言っても良いだろう。
▲サブプライム危機は去りつつある
実際にサブプライム不況の震源地は米国ウォール街の株価より、優秀な企業がひしめく日経平均の指数が二倍ちかくも下落している。
この謎をとく鍵は日本市場の特殊性に存在するというより、日本人の感受性、国際的非常識にあるのではないのか。
第一に米国に端を発したサブプライム問題の処理を巡る不透明性さがある。
当初は邦貨換算で10兆円ていどの損害と言われ、ならばとサウジ、ドバイ、シンガポール、そして中国の「政府ファンド」が米国の増資要請に応じた。
ドバイ投資庁は75億ドル、中国投資公司は50億ドル、シンガポールのテマサクも55億ドル(条件は10%のリターンと言われる)。これらの出資でシティ、メリル、モルガン・スタンレー、UBSなどが助かった。
日本は野村證券などが合計6000億円の損害をだしたものの、経常益から損金に充当しても利益がでるため危機はないとされた。
第二は世界でも最もサブプライムの損害が軽微だった日本であるにも関わらず、なぜNY市場より日本の株価が下落するのか、ちゃんとした説明がつかない不思議さ。
ヘッジ・ファンドばかりか、サブプライム問題は上クラスの「プライム・ローン」にまで波及し、3兆円ほど被害が追加された上、さらに各種担保証券と保険金融に被害が連動していることが判明し、保険企業の危機が言われた。
結局、サブプライム問題は、邦貨に換算して23兆円の評価損(08年2月末現在。GDPの2・8%)であり、90年代初頭におきたS&Lの評価損とほぼ同じ)を記録した。日本の損害はもう少し増えて7000億円弱になるだろう。
ワシントンは緊急に利下げを連発したほか、ブッシュ政権は大減税と景気てこ入れ策を矢継ぎ早やに発表し、邦貨換算で19兆円を注ぎ込むという大規模な対抗策を取りだした。
これで最悪の危機は脱するだろう。なんと言っても日本企業は地道な努力と技術開発で着々と成績をあげており、株価は理論的に言えば上昇する筈なのである。
ところがサブプライム損害から一番遠いのに西側株式市場で一番株価を下げた理由は、『外国人投資家』が手元資金充当のために日本株を売ったからである。だから日本株はまだ下がる。
ハゲタカのゴールドマンサックスなどは空売り(ウォール街でも空売り作戦を展開して、同社だけがサブプライムでは大もうけした)。
▲それでも政府を信用してハイリスクには手を出さない日本人の性格
第三に国民の金融資産1500兆円があまりにもまともに運用されていることだ。
諸外国のように株式投資に金融資産が向かっていないという、石橋を叩いて歩く国民性が(その保守性こそ日本が誇るべきだが)、むしろ金融市場を暗くしてしまうという不思議な両面性である。
具体的に言えば、個人資産のうち保険と年金が457兆円、すでに投資信託に回っている267兆円で合計700兆円は固定的資産だ。
残り830兆円のうちの780兆円が現金ならびに預金。残り50兆円が国債で運用されており、あの世界歴史でもまれな低金利で我慢している、それだけ政府を信用しているのが、日本人である(数字は08年一月末現在)。
第四は、市場の六割をしめた外国人投資家が東京から逃げ去ったという現実の動きに繋がっている。
同様に外国人記者クラブからNYタイムズが二人減らし、ロスアンジェルタイムズの東京特派員ゼロ。多くが北京、上海へ移動してしまったように、国際的企業も投資家も香港、上海、或いはインドへと向かった。東京市場が国際的には空洞化しているのである。元気を出せ、日本!
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1569 日本株がなぜ安いか 宮崎正弘

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