1625 福田首相も、小沢代表もミスキャストだ  加瀬英明

日本を福田康夫首相と、民主党の小沢一郎代表の二人が動かしている。
いや、動かしているといってはなるまい。二人は日本を取り巻く国際環境が大きく変わって、正念場に立たされているというのに、日本をすっかり停滞させている。
福田首相はまるで総理大臣のマネキン人形のようだ。「協調、協調」という空念仏を唱えるだけで、日本をいったいどこへ導こうとしているのか、さっぱり分からない。
福田内閣で唯一つ評価できることといえば、海上自衛隊をインド洋へ戻したことだ。日本がアメリカや、ヨーロッパの友邦諸国と力を合わせてインド洋の安全を確保することは、国益を守るためにどうしても必要なことだ。
日本は長いあいだにわたって「政治小国」だが、「経済大国」だといわれてきた。ところが、この十年、日本の表看板であってきた経済力を衰えさせるようになっている。日本は経済政策も、対外政策も無策で漂っている。
日本は米ソが対決していた冷戦が続いていたあいだは、「政治小国」であっても、アメリカがしっかり守ってくれたから、安穏としていられた。だが、冷戦が終わってから、日本を取り巻くアジアの環境が一変した。
冷戦下では中国は脅威ではなかったし、北朝鮮が核弾頭を持っていなかった。中国が経済、軍事超大国として出現しつつある。
アメリカは中国に幻惑されている。その例として、ホワイトハウスを目指すレースで先頭に立っているヒラリー・クリントン上院議員が、アメリカでもっとも権威ある外交専門誌『フォーレイン・アフェアース』に昨年寄稿して、「米中関係がアメリカにとってもっとも重要な二国間関係であり、米中両国がアジアの平和秩序を構築すべきだ」と主張しているが、日本に言及していなかった。
日本の存在が軽くなっている。このままゆけば、日本は「政治小国」から、さらに「政治零細国」に転落しかねない。
安倍前首相が日本の国内体制について、「戦後レジームからの脱却」といって、独立国にふさわしい体制を整備しなければならないと力説したが、日本のまわりで戦後レジーム――戦後体制が、もはや崩壊してしまっている。日本は急いで新しい環境に、適応しなければならないはずだ。
それなのに、福田内閣は海上自衛隊をインド洋に戻したほかには、これから日本がなすべきことを一つもしようとしていない。日本の衰勢をどうして食い止めたら、よいのだろうか。
福田首相も、小沢代表もミスキャストである。そのうえ、小沢代表は正常さを欠いている。頭がよいのだろうが、党首として次の選挙に勝つことにしか関心がなく、小賢しいだけで、常識を欠いている。
小沢代表は「自衛隊の海外派遣は、国連安保理事会もしくは国連総会の決議によって認められた活動に限るべきだ」と、主張している。国家が何であるかという基本を、踏み外している。
私たちは自衛隊を日本の主権を守るために養ってきたが、国際機関でしかない国連に日本の安全を委ねようというのは、日本が主権を放棄することと変わりがない。
仮に日本が周辺事態に見舞われて、自衛隊が日本の領域の外で武力を行使しなければならない場合に、国連決議を取りつけなければ、自衛隊を動かせないといっている。日本の周囲で周辺事態が発生した場合には、中国が関与していよう。中国は国連の意思決定の中枢機関である、安保理事会の五大国である常任理事国であるから、自衛隊の出動を阻むために、拒否権を行使することになろう。
民主党は与党が提出したテロ特措法案に対して、国連決議がないかぎり自衛隊を海外へ派遣することはできないといって、立ちはだかった。
日本の存立を国連に預けようというのだから、常軌を逸している。国連といえば他のどの加盟国も、政治的に利用しようとしている機関であるにすぎないのに、小沢代表は国連を世界の最高権威として崇めて、その奇怪な祭壇の前に拝跪しようとしている。もとより国連は、そのような権威を備えていない。
このように国際政治の初歩的な知識を欠いて、無知な人が、参院を支配している野党の舵取りであるのは情けない。
日本が危機に陥った時に、国連が救護に駆けつけることはありえない。日本は国連よりも、同盟国を頼りにするべきだ。国連が国際機関にすぎないのに対して、同盟国には実体がある。日本が今日、中国や、ロシアに対して一人前の顔をして応対できるのは、国連のおかげではなく、アメリカが後ろ盾についているからだ。
一九五六年にブレジネフ書記長のソ連が、ハンガリーを侵略した。ハンガリーは国連加盟国だった。ハンガリー動乱として知られている。国連はハンガリーを救援しなかった。その十三年後に、鄧小平の中国がベトナムに侵攻した。ベトナムも国連加盟国だったが、ベトナムが善戦したからよかったものの、国連は動かなかった。
小沢代表は国連決議のもとで、陸上自衛隊を国際貢献の名分を掲げて、アフガニスタンに送り込むことを説いている。だが、アフガニスタンで治安維持に当たってきたアメリカ軍、イギリス軍、ドイツ軍をはじめとする諸国軍が、すでに多くの戦死者をだしている。
それだったら、船の上で参加したほうが賢明だ。あるいはイラクの場合のように、航空自衛隊をクウェートに派遣しているが、空から物資を運んだほうがよい。小沢代表は子供の危険な火遊びをしている。
海上自衛隊が給油した燃料を、アメリカの空母がアフガニスタンの平和維持活動以外の目的に使ったといって、騒ぎ立てている。アメリカは日本のためにも、〃アフリカの角〃から、ペルシア湾岸、インド洋までの安全を図っているのだから、めくじらを立てるほうがおかしい。同盟は猜疑心ではなく、信頼関係によって支えられているものだ。
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