民主党はいよいよ困った立場に追い込まれた。
12日の参院本会議で、日銀人事について、武藤敏郎副総裁の総裁昇格、伊藤隆敏東大教授の副総裁起用を否決、白川方明京大教授の副総裁起用だけ賛成した。
行きがかりでここまできてしまったが、民主党が態度を変えるチャンスはいくつかあったものの、ついに転換できないままだった。11日の所信聴取を受けて、武藤氏に対し、「財金分離の立場を了解した」ということにして賛成にまわるというのが最後のチャンスだったが、これも逃してしまった。
13日の衆院本会議では、3氏とも「同意」されるが、日銀法では衆参両院の同意が必要としているので、結果的には白川氏だけの同意となる。
こうなったら、福田首相は「差し替え案」など出すべきではない。武藤氏が日銀総裁として最もふさわしいと判断した以上、これを曲げたら政治のスジが通らない。福田首相の政治的リーダーシップに致命的なダメージとなる。
各紙の社説では、民主党の態度に批判的なものが目立った。それも当然だ。このままいくと、日本の中央銀行総裁が空席になるという前代未聞の事態が生ずる。
ここはそれでもいいではないか。「衆参ねじれ」を克服していくには、与野党双方の知恵が求められるわけだが、民主党は最後まで「政略」に利用した。
当面は「白川総裁代行」でいこうではないか。専門の学者なのだから、資格は十分にある。国際社会も民主党の「横暴」を理解し、認めてくれるだろう。
民主党がこういうかたくなな態度を崩さなかったのは、党内のバラバラ状況が原因だ。小沢代表は武藤氏容認に傾いた時期があったのだが、最後は大勢に従った。
党内がまとまっていないと、外に向かって強く出る以外にない。日銀総裁人事は民主党の「お家の事情」に左右されてしまった。
参院本会議では、民主党会派の3人が棄権、2人が欠席した。先の新テロ特措法採決に続く造反だ。今後の展開を考えると、参院で与党は過半数に17人足りないが、この分を埋めることができれば、「中連立」に向けての突破口となる。
この日の棄権・欠席組はそのさいの軸となるという意味合いが込められている。
<<同意人事、衆院優位規定を>>
【産経新聞連載コラム「政論探求」12日付・再掲】
日銀総裁人事が大詰めだ。武藤敏郎副総裁の昇格案を提示した福田首相に対し、民主党は「財金分離」などを理由に認めない方針で、総裁空白の事態も懸念されている。
そうなった場合、「総裁代行」を置く手はあるが、いくらなんでも日本の中央銀行総裁ポストが決まらないというのは、世界経済の先行き不安が募るときに、国際的な迷惑をかけることにもなる。日本の地位が低下するのは必定だ。
「財金分離」は金融庁の発足で果たせたはずなのだが、民主党の理屈だと、今後、財務省出身者は日銀総裁になれないわけだ。どう見ても、政権を追い詰めようという「政略」的な臭いが強い。
「衆参ねじれ」による国政の停滞が深刻化する中で、国会同意人事も与野党の衝突材料となってしまった。
国会の同意を得て、内閣、首相、大臣が任命する人事は35機関にのぼる。与党が衆参両院で多数を占めていた時期には、政府提案がそのまま通るのが常識だった。
昨年11月には、労働保険審査会、運輸審議会、公害健康被害補償不服審査会の3委員について、民主党が官僚の天下りなどを理由に認めず、56年ぶりの不同意となった。
国会同意人事は憲法で定められているわけではなく、それぞれの法律による。日銀の場合も日銀法32条で両院の同意を得て内閣が任命すると規定されている。
憲法59条は、衆院可決、参院否決となった法案について衆院で3分の2の賛成があれば再議決できるとしている。首相指名、予算、条約は衆院優位が憲法で定められている。そうしたものよりも国会同意人事のほうが壁が高いというのはおかしくないか。
ここは、国会同意人事も衆院で再議決できるようにするか、あるいは衆院優位原則を適用するなどの法改正をはかるべきだ。首相を決めるよりも審議会委員のほうが難しいというのでは、バランスを欠く。35機関ごとの法改正でなくても、国会同意人事をひとくくりにして1本の法律で規定できるはずである。
首相指名選挙で衆院の議決が優先されるということは、政権をつくるのは衆院の意思による、つまり、政権選択は衆院の役割といっていい。
となれば、行政トップである首相の判断による重要人事が、参院の反対で認められないというのは、憲法が想定する2院制の趣旨に沿わないともいえる。こういうことを繰り返していては参院無用論に弾みがつきかねない。
ここでも、政治の責任において「ねじれ」克服ルールの確立が求められている。★★花岡信昭メールマガジン★★543号[2008・3・13]転載
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