宮崎正弘氏が青木偉作著「ユダヤ人の勉強法」(中経出版)を紹介していた。青木氏は1965年、東京都生まれ。イラスエル国立ヘブライ大学社会学部政治学科卒業(イスラエル政治専攻)。日本の大手新聞社のエルサレム支局記者助手を経て、現在はヘブライ語翻訳家、ユダヤ文化研究家として活躍している。
「ユダヤ人の勉強法」のほか「驚くほど似ている日本人とユダヤ人 エリ・コーヘン著 青木偉作訳」(中経出版)、「ユダヤ人に学ぶ日本の品格 エリ・エリヤフ・コーヘン 著 藤井厳喜著 青木偉作訳」(PHP研究所)、「大使が書いた日本人とユダヤ人 エリ・コーヘン著 青木偉訳」(中経出版)などがある。
宮崎氏の紹介文と記事。
<サルコジ仏大統領は大胆な政治路線でEUの一方を果敢に率いるが、他方では奔放なセックス・フレンドを公衆の面前に連れ歩き、国民の顰蹙を買うかと思いきや、絶賛するフランス国民がいる。猛烈に反発するのは在仏のイスラム教徒だ。サルコジはユダヤ人だからである。
キッシンジャーとかアインシュタイン、マルクスらがユダヤ人であることは広く知られる。ノーベル賞受賞の25%がユダヤ人というからには、頭が良い人が多いのであろう。
日本のおけるユダヤ人論議はいまでも底辺で面妖なる「ユダヤ陰謀論」がくすぶり続けているのも、潜在的な心理としてのユダヤ優秀論が流れているからだ。
さて評者(宮崎)も、ユダヤに関しては三冊の著作があり、ユダヤ人脈に関しては詳述してきたが、本書で得た新しい情報がいくつもある。
第一に米国連邦上下議会に、驚くべし43人ものユダヤ系議員がいることだ。下院に30名、上院に13名。リーバーマン上院議員くらいしか知らなかった。
ユダヤ系はハリウッドとマスコミとウォール街にだけに集中し、のこりは大学教授、医者、弁護士だとばかり思っていたからこれは衝撃です。
第二にロシアの「オルガリヒ」(新興財閥)有力七人のうちの五人がユダヤ人だという事実。なかでもベレゾフスキーとホドルコフスキーである。
前者はイギリスへにげて厳重な警戒のなかを暮らしている。後者はプーチンに敵対したためえん罪をでっち上げられて刑務所暮らし。経営した最大資源会社「ユコス」は、まんまとプーチン一味に乗っ取られた。
かつても政治銘柄ではプリマコフ、チュバイスらがユダヤ人だった。
第三にイスラエル国家が二千年の流浪の果てに復活した秘密とは、古代エジプトもギリシアもフェニキア(カルタゴ)も、歴史から完全に消えたのと対比すると鮮やかだが、それは「ユダヤ人は優秀でないと生き残れなかった。だから優秀な人材が生き残り、くにを再建したのだ」という格言は、或る意味では明日の日本のなにかを示唆しているのではないか。>
「資本論」のカール・マルクスがユダヤ系ドイツ人の父親とオランダ生れのユダヤ人である母親の間で生まれたことは知っているが、サルコジ大統領がユダヤ系フランス人とは知らなかった。
ロイター通信社を設立したユーリウス・ド・ロイター男爵は、プロイセン(ドイツ)のユダヤ教学者の家で生まれている。ロンドンに渡ってキリスト教に改宗したが、もとはユダヤ教徒。
ユダヤ人の定義はいろいろある。必ずしもすべてがユダヤ教徒ではない。ロイター男爵の様にキリスト教に改宗した例もある。
広い意味でいうユダヤ人は、全世界で約1300万人。イスラエルに約530万人、アメリカにもほぼ同数。ついでフランスが約50万人。以下、カナダ、イギリス、ロシア、アルゼンチン、ドイツと続き全世界に散らばっている。
イスラエルの建国までは”亡国の民”だったユダヤ人だが、金融業や商業で優れた才覚をみせ、やがては学術・文化の面でも頭角を現している。優秀な民族だったが故に差別や弾圧の歴史を繰り返してきた。ナチス・ドイツのユダヤ人迫害は記憶に新しい。
東洋の華僑やロシアのアルメニア人が地域で弾圧されたと同じ歴史がある。新天地を求めてアメリカを建国した歴史の中で、多くのユダヤ人がアメリカに移住して、今やパワーエリートの一角を占めるに至った。アメリカがイスラエル寄りなのは、この事情が影響している。
しかしイスラエルの建国は、アラブ人から土地を奪う形となったから、多くのパレスチナ難民を生んで、中東情勢の不安要因となった。根底にはユダヤ教とイスラム教の抜き差しならぬ宗教対立があるから、解決は簡単ではない。
中東にアメリカ民主主義を広めようとしたネオコンもユダヤ系アメリカ人の試みであったが、軍事力による制圧はかえって事態を混迷化させている。優秀な民族が優秀さを誇るのは、むしろ危険思想に堕するのではないか。サルコジ人気も低落している。
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