1648 取り返しのつかぬ失敗  渡部亮次郎

民主党がまとまりのない党内を纏めるために政府提案の日銀正副総裁人事同意案件を参院で否決した事は、中立であるべき日銀総裁の人事を政争の具にしたもので、マスコミですら批判に廻ってしまった。「風」頼みの民主党にとって取り返しのつかない大失敗となった。
こうした状態を昔のひとは「覆水盆に返らず」と言った。広辞苑にも出ている。
周の呂尚(太公望)が読書に耽ったので、妻が離縁を求めて去った。後に尚が斎に封じられると再婚を求めて来たが、尚は盆を傾けて水をこぼし、「その水を元のように返せばその請を容れよう」と言った、と言う故事。
先輩記者の諭しによると新聞の論説が一斉に民主党を批判していることは鳩山幹事長にとって想定外だったらしい。新聞という世論の風頼みの民主党だから、日銀の総裁人事に不同意といっても新聞論説から支持されると甘くみていた、ということだ。
土台、中立であるべき日銀総裁の人事を政争の具にすることが間違っている。国際的な景気後退、経済不安がいわれている時に、参院多数を武器にして福田政権を揺さぶろうというのは党利党略以外の何ものでもない。
それが新聞に支持されると判断したところにお坊ちゃん幹事長の甘さがある。日頃、付き合いのある鳩山番の記者たちに「論説委員たちは財務省に毒されている」とぼやいたそうだ。
「論説はほとんど読まれないから・・・」と自らを慰めながら民主党の支持率低下をさかんに心配しているという。そんな事をいうなら民主党支持者の何が論説を読んで支持したというのか。
これについて、産経新聞に客員編集委員として戻り、再度現場に通じている元政治部長の花岡信昭氏は内部事情を指摘する。
<民主党がこういうかたくなな態度を崩さなかったのは、党内のバラバラ状況が原因だ。小沢代表は武藤氏容認に傾いた時期があったのだが、最後は大勢に従った。
党内がまとまっていないと、外に向かって強く出る以外にない。日銀総裁人事は民主党の「お家の事情」に左右されてしまった。
参院本会議では、民主党会派の3人が棄権、2人が欠席した。先の新テロ特措法採決に続く造反だ。
今後の展開を考えると、参院で与党は過半数に17人足りないが、この分を埋めることができれば、「中連立」に向けての突破口となる。
この日の棄権・欠席組はそのさいの軸となるという意味合いが込められている。>花岡信昭の「メイルマガジン543号」から
花岡氏はまた鳩山幹事長の采配ぶりについて自らのブログ(2008/03/09)で次のように指摘していた。
http://hanasan.iza.ne.jp/blog/
<民主党の鳩山幹事長は「別の人を出してくれば党首会談を受けてもいい」といった発言をした。
ここに鳩山氏の政治的非力さが透けて見える。鳩山氏がこう言ったからといって、もし、福田首相が武藤総裁案とは違う案を出してたら、どういうことになるか。
福田首相の政治力はそこで終わる。野党第1党が反対していることは前から分かっていたことで、それを承知の上で出してきたのである。
だから、鳩山氏は事態打開に向けての発言をしたのではない。混迷の責任は福田首相にあるという構図を作り出そうということにすぎない。
福田首相としては、こうなったらテコでも退(ひ)かないだろう。退いたら、政治的なダメージは取り返しがつかないほど大きい。・・・
・・・日本の中央銀行総裁が空席になるのだから、世界経済に与える影響は多大なものがあるだるう。株安にはずみもつくに違いない。
だが、今回の構図はきわめて分かりやすい。そう複雑に入り組んだ話ではない。悪いのは民主党。世界中がそう思ってくれる。
これは福田首相にとって悪い展開ではない。民主党はいよいよ政権担当能力の欠如ぶりを天下に晒したことになった。
「財政金融の分離」が民主党の主張だが、財金分離は金融庁発足で制度としても確立したのだ。そこを見据えない「武藤忌避論」は反対のための反対でしかない。>
しかし、党内で求心力を欠いている小沢氏は断行できなかった。民主党は政権担当能力の無さをさらけ出してしまった。衆院選挙では負けが確定した。幹事長も東大工学部の頭では政治家に向かない。
次の衆院選で惨敗した時、日銀武藤総裁案を改めて認めるから政権をくださいといっても「覆水は盆に返らず」2008・03・13
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