1726 民主党は本当に勝ったのか 花岡信昭

ガソリン税の暫定税率を巡る与野党折衝が決裂、4月からガソリンの値段が下がった。ここまでは「ガソリン値下げ」を政局の最大の争点としてきた民主党の「勝利」のように受け取られているが、本当にそうなのか。税制を巡る本格的な「改革論」での勝負が迫られている。
国会攻防の次元で言えば、ガソリン税の暫定税率維持を含めた予算関連法案は4月29日に参院送付後60日を迎え、衆院での再議決が可能になる。民主党は「いったん下げたものを上げるのは政治的には不可能」として、このまま暫定税率廃止で突き進む構えだが、そうなると2兆6000億円の歳入欠陥が生じ、地方財政にも多大な影響が及ぶことは言われている通りである。
再議決規定は憲法59条で定められている。民主党は再議決を強行したら、首相問責決議案を参院で可決するとしているが、問責決議案は憲法にも国会法にも規定はない。法的拘束力はゼロなのだ。
政治論として、問責決議を受けた首相が参院の審議に出ることは許されない、だから政権は立ち往生する、というのが民主党側の思惑だ。
憲法で定められた規定よりも、法的になんら裏付けのない問責決議が優先されるのかどうか。ここは、ガソリン再値上げを巡る是非論をわきに置いて、政治のスジ論から考え直す必要がありそうだ。
この先、怖いものない自民、分裂を危惧する民主。福田首相の周辺や自民党幹部らは「粛々と憲法の規定を踏まえて対応すればいい」としている。
おそらくは、4月末に与党単独可決というかたちで、衆院本会議での再議決が行われるだろう。国民新党は暫定税率維持に理解を示しているから、野党内での対応の乱れが出るかもしれない。
国会はまた混乱することになるが、予算は既に成立しており、関連法案も成立するとなれば、与党側としてはもう怖いものはない。
極端な話、そのまま何もできずに6月15日の通常国会会期切れを迎えることになっても、国政は著しく停滞するが、福田政権は安泰だ。いずれかの時点で内閣改造をやって、国民的人気のある実力者や若手論客らを閣内に取り込むといったイメージチェンジでも図れば、内閣支持率をなんとか維持できるかもしれない。
前回コラムでも触れたように、福田首相がいよいよ支持率低下でバンザイするようなら、解散をせずに総裁選を行うという手もある。民主党としては、そういう展開だと困ることになる。
麻生太郎、与謝野馨、谷垣禎一、小池百合子各氏らの名前が早くも浮上しており、そうした顔ぶれで総裁選をやったら、国民の関心がそこに集中する。
そう考えると、「ガソリン政局」は民主党が勝ったと見るのは早計で、むしろ、9月代表選挙を控えた民主党の党内事情のほうがより深刻な要素を秘めている。
上述のような展開で自民党総裁選が行われれば、自民党のパワーは強化されるが、民主党代表選の場合、経過によっては党分裂の引き金になりかねないのだ。そこが政局の「アヤ」というものである。
首相提案は年末の税制改正を見据えている。いわれてきた「4月危機」突入後、政治攻防は新たなステージを迎えたといっていい。そのキーポイントは福田首相が3月27日に突然、発表した「7項目提案」に隠されている。
町村官房長官らが同席せず、伊吹幹事長が「党の了承を得たものではない」と述べた記者会見だったが、この「7項目」はだれがどういう経緯で作成したのか、詳細は依然としてナゾだ。
「7項目」の第1項目は、「20年度歳入法案の年度内成立」となっていたから、これは実現できないまま消えた。したがって、この首相提案がいまだに生きているのかどうかは判然としない。
だが、「道路特定財源制度は今年の税制抜本改正時に廃止し、21年度から一般財源化」という項目の持つ意味合いを軽視すべきではない。
「一般財源化」は民主党の主張でもあった。民主党がここで首相提案に乗っていたら、その後の展開はまた違ったものになったのだろうが、「ガソリン値下げ」を最優先とした民主党はこの首相提案を蹴ってしまった。
金融国会では「政局にしない」という対応が一定の成果をあげたのだが、そのときとまったく逆の動き方をしてしまったのである。
年末の予算編成、税制改正は近年にない重要な意味合いを持つ。基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げるため、消費税の税率アップの必要性が出てくるのだ。
首相提案に「今年の税制抜本改正時」とあるのは、そういう意味だ。消費税と道路特定財源、年金財源を絡めた一大税制改正ということになる。
道路財源の見直しは「田中角栄型政治」からの脱却という歴史的意味も持つことになる。小泉元首相が郵政分野に手を突っ込んだのも、「角福対決」を引きずった同様の意味合いから説明する向きがあったことを想起したい。
「歳入欠陥はほぼ消費税1%」の意味。消費税は1%で2.5兆円の税収となる。道路特定財源の暫定財率廃止で生ずる歳入欠陥規模とほぼ同額である。そこから「税制抜本改正」は絵空事ではなく現実的な意味を持つのだというイメージが鮮明になっていく。その効果を見過ごすべきではない。
あの時点での首相提案は土壇場でのアリバイ工作であるかのように受け取ることも可能だが、今後の改革政策の核心を提起したということであるのなら、本格的な税財政改革論の先行提示として重要な意味合いをはらんでいる。
「ガソリン政局」といった矮小化されたレベルを超越して、政策論争のスタート台に立ったということであれば、福田首相の投じた一石は重い。
民主党としても政権担当能力を示す上で、「一般財源化」をキーワードとする本格的税財政改革の論争舞台に乗るべきであろう。国政を機能不全に陥らせた不毛の政局攻防はもうたくさんだ。【日経BP社サイト「SAFETY JAPAN」連載コラム「我々の国家はどこに向かっているのか」弟103号・3日更新】再掲
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