戦前・戦中のことになるが、東京・九段下に”山東軒”という小さな支那料理店があった。オヤジとオフクロに連れられて、月に一度は山東省料理を食べに行ったものである。この味が忘れられない。
横浜の南京街にある四川料理店にも戦後はよく通ったが、お目当てはエビのチリ・ソース炒めとマーボー豆腐。本場の広東料理も食べたが、ゲテモノには閉口した。北京料理は上品過ぎて口に合わない。
山東省料理は味が濃く、アンカケのカニ・タマゴ、ナスの挽肉炒め、焼いた魚をほぐしてキュウリとナスと一緒に炒めたものが美味かった。いずれもニンニクがきいていて、田舎風なのがよい。ニラとニンニクをさっと炒めて、即席のニラ粥を作ってくれた。食い物のことは忘れられないものである。
九段下辺りはB29による空襲で焼け野原となった。戦後、”山東軒”を探し歩いたのだが、見つけることが出来なかった。オフクロを連れて山東省料理を食べに行きたいと柄にもなく親孝行を考えたのだが・・・。
晩酌を過ごして、ついオフクロにその話をしたら翌日にアジを焼いてほぐしたものをベースにしてキュウリとナス炒めを作ってくれた。「どうだい。山東軒には敵わないが」とあまり自信がなさそう。
二、三日して即席のニラ粥も作ってくれた。どこか山東軒の味とは違うのだが、美味いと思った。それ以来、この二つの料理がわか家の定番料理になった。食欲が落ちる夏になると女房がニラ粥を作ってくれる。山東軒ともオフクロの味とも似つかないのだが、それはそれとして女房の味。
九段下の”山東軒”はなくなったが、一度、本格的な山東省料理を食べに行こうと思っている。
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1755 九段下の”山東軒” 古沢襄
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