2008年2月27日の米中経済安保調査委員会での「国家主権とアクセス制御についての中国の見方」をテーマとした米国海軍軍事大学のピーターA.ダットン准教授(中国海事研究所)の分析を引き続き翻訳する。
主権強化のための中国の軍事力行使は、地域の安定と繁栄に何をもたらすのか? それがアメリカと中国の関係に何をもたらすのか?
これらは非常に幅広い問題で、他の論者の広範囲な議論を必要とするところです。しかし、私がこれらの質問に関して2つのポイントには答える資格はあるだろうと思っています。
第一点は、中国は(インドネシアなど)南シナ海の隣人とは海の論争解決へ比較的協調的なアプローチをしました。すなわち東シナ海論争に関して日本と対立していますが、中国は南シナ海論争とまったく正反対の立場に立っているということです。
中国のリーダーが最近日本に対して親しみを表明したことに関係なく、中国が実は、日本との論争を解決するために最高の関心を払いそうもないことは十分にあり得ます。
東シナ海での主権、資源、境界線についての中国と日本の間で緊張、特に尖閣/釣魚島諸島への主権に関わる日本の管理と主張についての対立は、国家主義・ナショナリズムの(発動を制御する)レバーを中国政府に与えており、国内の(圧政、格差、不満などの)困難から中国国民の注意をそらし、国内の政争に際し中央政府に対する支持をとりつけるために国家主義・ナショナリズムのレバーは有効です。
中国のリーダーが中国国民の国家主義・ナショナリズムを煽りたいときはいつでも、東シナ海での日本との領域争いを思い出させ、数十年前に中国の領域の大きな部分が日本に占領されたことを思い出させればいいのです。
中国の海の主張に関して国家主義・ナショナリズムと「日本の侵略に反対する断固とした姿勢」とを結合することで、中国政府は彼らを侮辱する外からのパワーを二度と決して許さないことを人々に示します。このように、日本以外の隣人とは協力的に交渉し、日本とはコントロールされた係争状態に置くことによって、中国は国内の安定と地域での台頭に資するよう国内と地域での政治的メッセージのバランスをとります。
その上、中国の長期の戦略的な関心は、その地理的位置に注がれており、中国本土は千島列島から南シナ海の群島まで中国の海岸線に沿って走る島嶼群に囲まれています。
それが中国にとり作戦上の広域空間になっており、そこで合法的に航行する非中国の軍艦のプレゼンスと争うことになります。
いかなる将来の対立にあっても、中国の合法的かつ自由な作戦行動を制限するかもしれない日本との妥協よりは、むしろ中国本土から日本の領域におけるアメリカ軍基地の軒先である沖縄まで、つまり東シナ海全域での領有権主張を維持することは、中国の軍事上の利点であるかもしれません。
中国は東シナ海の境界に関する議論が手に負えなくなって、実際の対立に弾けることになっても、早期に解決しようという短期的関心はありません。台湾への中国主権の主張が大きく脅される場合だけ、中国は東シナ海主権のために軍事力を発動しそうです。
かくして私の最初の点についての結論は、「その外交と軍事要素で日本とコントロールされた争いをするという方針の維持は、海域に対する北京の主権の維持・拡大に有効なツールであり、作戦上有効ならその海域における中国の主権・支配を拡大するオプションを保存するだろう」ということです。
第二の点は、アメリカと中国の間での軍事危機の可能性に関するものです。アメリカの沖合における調査と偵察飛行に関し、そして、台湾危機に際してアメリカ海軍派遣を許さないという中国の全体的な戦略に関するものです。先制攻撃に関する中国の議論についての興味深い研究がランド研究所によってなされ、2007年に発表されました。
この研究報告では、深刻な危機の時に、中国軍がアメリカ軍の技術的優勢の効力を消すか、克服するために利用できるいろいろな先制攻撃戦略を論ずる人民解放軍の著作を記述しています。中国の戦略家が注目しているのは、米国の監視・調査能力です。一部の中国の戦略家は先制攻撃を彼らの「積極的防衛」戦略と一致しているとしていますが、国内外で先制攻撃の合法性を維持するためには、「人民解放軍は中国の主権を防衛するために武力を行使した」とみなされる必要があります。
これは、排他的経済水域(EEZ)とその上空における、国際社会で認められた軍の活動に対する正当性に対して、EEZとその上空での沿岸国(中国)の権威・権力を強めることで(外国の軍事行動を牽制し)、台湾海峡で深刻な危機が起きた場合の中国の先制攻撃の論拠にするだろうことを示唆しています。彼らがその主張を確立することによって、「米国の沖合監視と調査飛行は中国の国家の安全、その独立への侮辱、そして国際法違反だ」とし、これらの飛行に対して先制攻撃するためにステージを用意し、攻撃を合法的だとするのでしょう。
このように、EEZとその上空における国際社会の軍の活動に反対し、沿岸国の権限を強化する中国の努力は、沿岸国が自衛のため合法的に武力行使するかもしれない状況を想定させます。「中国の200海里以内の海と空域で外国軍の活動を阻止し、米国の監視・調査飛行について国際世論でイニシアチブを得よう」というのが狙いで、これは中国の「法的戦争」として解釈することができます。(つづく)
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