5月8日朝、訪問中の胡錦濤主席と中曽根康弘、海部俊樹、森喜朗、安倍晋三の歴代首相4人との朝食会がホテルニューオータニで開かれた。小泉純一郎元首相は「おれが行ったら、胡主席は来ないんじゃないか」と周囲に漏らしており、姿を見せなかった、という。その一徹さは良い。
胡主席は「みなさんとお会いできるチャンスを得て大変うれしい」と、にこやかに謝意を表明したが、安倍前首相の発言で雰囲気が一変した。その発言の要旨は次のようであったと報道されている。
戦略的互恵関係の構築に向け、相互訪問を途絶えさせない関係をつくっていくことが重要だ。国が違えば利益がぶつかることがあるが、お互いの安定的関係が両国に利益をもたらすのが戦略的互恵関係だ。問題があるからこそ、首脳が会わなければならない。
これは、小泉元首相の靖国参拝をめぐり中国側が首脳交流を途絶えさせたことを暗に批判したものだった。安倍前首相は、さらにこう続けた。
私が小学生のころに日本で東京五輪があった。そのときの高揚感、世界に認められたという達成感は日本に対する誇りにつながった。中国も今、そういうムードにあるのだろう。
その中で、チベットの人権問題について憂慮している。ダライ・ラマ側との対話再開は評価するが、同時に、五輪開催によってチベットの人権状況がよくなったという結果を生み出さなければならない。そうなることを強く望んでいる。
会場には緊張感が走り、出席者はみな一様に黙り込んだが、安倍氏はさらにウイグル問題にも言及した。
これはチベットではなくウイグルの件だが、日本の東大に留学していたトフティ・テュニヤズさんが、研究のため中国に一時帰国した際に逮捕され、11年が経過している。彼の奥さん、家族は日本にいる。無事釈放され、日本に帰ってくることを希望する。
胡主席は「私はその件は知らないので、正しい法執行が行われているか調べる」と返答したが、チベット問題については触れようとしなかった。
こういう公式の場で、チベットのみならず、ウィグルでも同様の人権問題が起きていることを提起した安倍前首相の功績は大きい。
ちなみに日中共同声明では、歴史認識問題はあまり触れられず、日本の戦後の歩みが評価されるなど、親中派の福田首相のもとでまとめられた文書としては「意外に」健全な内容となっていたが、これも産経新聞社・阿比留瑠比氏のブログによれば、「『日中共同声明』はほとんど安倍内閣の遺産」との由である。改めて安倍氏の功績に敬意を表したい。
また、胡錦濤主席が訪問した先々で、「フリー・チベット」を叫ぶ人々の姿がテレビでも報道されたが、これを見て、世界の人々は、日本はこんな時期に胡錦濤を迎えたが、言うべき事は言っている、という印象を持っただろう。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(5月2日現在1814本)
1825 胡錦濤を問いつめた安倍前首相 伊勢雅臣

コメント