1835 茄子の花と母の言葉 渡部亮次郎

知り合いの産経新聞外信部記者田北真樹子さんが5月14日付で社会面に執筆した「人」欄によるとブラジルの空軍司令官に2007年2月、初めて日系人が就任、インタビュー記事が載った。
「お母さんの言葉はナスの花と同じ。千に一つの仇(無駄)も無い」この人はサイトウ・ジュンイチさん(65)。青森県出身の父と香川県出身の母との間に1942年、サンパウロ州ポンペイア市で誕生。15歳の頃からパイロットを目指す。
無理だと思っていたが、働きながら士官学校に通う。今でも思い出す母の言葉がある。「私たちは稲穂のようにならなくてはいけない。伸びれば伸びるほど頭を垂れなさい」
<謙虚さは多民族国家のブラジルには無い価値観だ。むしろ足を引っ張られる。だが、謙虚であり続けたから、250人の同期との出世レースに勝ち抜いて昨年、空軍トップに立った自分がいると自負する。今年、ブラジルに日本人が初めて移住してから100周年を迎えた。
「お母さんの言葉はナスの花と同じ」。ナスの花と親の意見は千に一つも仇がない、とのことわざを用いて母に感謝する。
「残念ながら両親が生きている間に司令官就任を見せることが出来ませんでしたが、私が空軍トップになったことをどこかで見ていて、誇りに思ってくれているでしょう」。
「日本もブラジルも防衛を重視しています。だからこそ、常に準備をしていなければいけません。防衛が必要になったとき、そこでミスがあれば、元に戻すには何百年もかかりますから。>(田北真樹子)
感激してメイルを出したら田北さんからさらに感激的な返事が返ってきた。「サイトウさんの取材は久しぶりに日本人でよかったと思わせくれるような取材でした。
取材後、自分自身が洗われた感じになりました。日本人のいい部分が凝縮した方なんです。ある意味、ブラジルで現代の日本と接していないことがよかったのかも、と、これはこれで情けなくなるようなことを考えさせられましたが・・・。
サイトウさんが「ぼくのおとうさん、おかあさん」と言うんですが、その言い方が本当に愛情に満ちていて、よかった。わずか20分の取材でしたが貴重な経験をさせていただきました」。
親の意見と茄子(なすび)の花は千に一つの仇(あだ=無駄)は無い。
「故事 俗信 ことわざ大辞典」(小学館)によれば、茄子の花は、咲けば必ず実をつける。それと同じように親の意見(=諭氏)もすべて子のためになる。親の意見は聞くべきである、ということ。
同じようなことで「親の意見と冷酒(ひやざけ)は後に効く、というのがあるが、若い人たちは日本酒を飲まないせいか、この諺も知らない人が多い。記事によればサイトウさんの日本語は滅多に使わないが堪能の由。
それにしても敗戦後は日本人が忘れてしまった日本人の真心をブラジルの2世が持ち続けていることに感動した。私は私の母を思い出して胸がふさがった。
母は3年前、98でポックリ死したが、郷里の施設での急死だった事もあって死に目には遭えなかった。
その母が私の子供のころ「ご飯は字のとおりたった1粒作るにも1年と八十八の手間がかかっている。大事に食べなけりゃいけません、と諭してくれた。
ところが反抗期だったので「粒なら田圃に落ちている」と口答えしたところ、母は黙ってしまい、会話は途切れた。サイトウさんの話を読んで、突然、このことが甦った。沈黙の意味をやっと知ったのである。涙した。
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