麓邦明氏が亡くなってから久しい。共同政治部の先輩記者から田中角栄氏の秘書に華麗な転身を遂げたが、後事を早坂茂三氏に託して田中政権の誕生前に田中氏と決別している。佐藤元首相の首席秘書官だった楠田実氏は「麓氏は哲学者的風格と思考力の持主」と述べた。
海軍兵学校をでた海軍少尉さん。だが敗戦で復員し東大法学部に入り直して、一九五二年に共同通信社に入社。合気道が縁となって政治部では親しくなったが、楠田氏がいう様に哲学者的な思考力がある。それで「麓のいうことは分かり難い」と部内ではケナス向きもあった。
自民党記者クラブ(平河クラブ)時代に麓サブキャップに私の原稿を見て貰っていた。ニヤニヤしながら「大平・田中盟友関係は違うね。田中・大平盟友だよ」という。池田内閣が出来た当時のことである。官房長官、外相と池田ブレーンの大平正芳氏は日の当たる場所を歩いている。佐藤派の田中氏は蔵相だが、池田からみれば助っ人に過ぎない。
麓氏のいうことに逆らって「どうしてですか?」といった返事は今も忘れられない。
「田中は大平がいなくてもやっていけるが、大平は田中なしではやっていけない」・・・つまり二人の盟友関係は、田中が主で大平が従だと喝破した。後になってみれば、その通りなのだが、池田内閣の発足当時にこれだけのことを言い切る政治記者は少なかった。
正月原稿で日本の防衛政策というテーマを与えられた。自民党の防衛族の話をせっせと取材していたら、麓サブキャップは「防衛族の取材は無駄骨。いくら取材しても防衛政策は出てこない」と待った!がかかった。
海軍少尉さんの言うことである。参院の議員食堂で昼飯を食いながら、麓レクチャーをたっぷり聞かされた。戦闘機を作り、戦車を配備することが防衛政策ではない、日本の安全保障をどう構築するかが、防衛政策だという。
日本が戦争に負けたのは、第一線の歩兵重視、戦闘機乗りの優遇、戦艦第一主義で、兵站思想が欠落していたためだよ。戦術重視だが、戦略軽視だから長期戦には勝てない・・・。元軍人の言うことだから説得力がある。
戦争に勝つにはカネだよ。カネがなくては戦争に勝てない。まずカネだと力説するあたりは、後に田中秘書となる麓氏の行動と合わせて考えると面白い。徹底したリアリストであった。裏返せばカネがないなら、いくさはすべきでない、ということになる。
カネを軽視して精神論を説くのは、ダメだねと福田赳夫批判まで飛び出した。戦前の日本軍部の様だと手厳しかった。その福田担当記者に四、五年後には私がなるとは知るよしもない。
中国は今、軍事費にカネを注ぎ込んでいる。その結果、民生がなおざりにされている。四川大地震は躍進する中国経済の裏側で、脆弱な中国社会の問題が露呈された。かつてソ連が米ソ冷戦に引き込まれ、民生がなおざりになって、劇的なソ連崩壊につながった。
麓氏のいう兵站思想を民生安定に置き換えてみたらどうだろう。長期戦をたたかうには民生を安定させる戦略思想が必要になる。中国が取り組む課題は、ここにあるのではないか。
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1854 大平・田中盟友は違うね! 古沢襄
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