情報操作に成功すれば、戦いは半分以上勝ったも同然だ。中国は国内の異民族支配でも情報操作を徹底してきた。
異民族を外部から遮断し、閉ざされた空間で弾圧と融和策を繰り返し、彼らの消滅を図る。外部世界には偽りの情報を発信する。世界はその情報を多少は疑いながらも関心を抱かない。かくして中国共産党の情報操作は効果を発揮するのだ。では、中国国内の異民族の実態はどこにあるのか。東トルキスタン(ウイグル)亡命政府の首相ラクマット・ダミアン氏に聞いた。
「私たちは今、中国共産党政府から、テロリストで国家分裂主義者として断罪されています。そして国際社会には真実は知らされません。歴史を遡ると、ウイグル人がその時々の局面でじつにさまざまなレッテルを貼られ、虐殺されてきたことがわかります」
氏は、毛沢東らは中華人民共和国建国以前から、ウイグル族を「反革命分子」として敵視し、「地主」「牧場主」などと非難し、多数を殺したと語る。
「地主といっても、ウイグル族の多くが地主です。つまり、中国共産党は普通のウイグル族を次々と殺したのです。次に彼らが用意した虐殺の理由は『民族主義者』でした。漢民族でないことを理由とする弾圧で、彼らに恭順の意を表さないと言って私たちの仲間を殺したのです」
文化、文明、価値観を漢民族のそれに合わせ、漢民族の一部となって溶け込んで消えてしまうまで、中国共産党はウイグル族への弾圧をやめないと、ダミアン氏は断言する。
「次の理由は『修正主義者』でした。中ソ対立の時代、中国がソ連を非難したのと同じ理由です。あたかも東トルキスタンが中ソ対立でソ連側に立ったかのように論難し弾圧したのです」
「そして現在、われわれはテロリストだそうです。アルカイダとつながる過激なイスラム原理主義者で国家分裂を企んでいると非難します。しかし、漢民族の主張こそ共産党原理主義です。彼らが私たちにしてきたことは、殺戮と搾取以外の何物でもありません」
ウイグル族は1933年に東トルキスタンイスラム共和国を、44年に東トルキスタン共和国を建設した。49年に中華人民共和国を建設した毛沢東はウイグル族を弱体化するべくソ連と謀った。3万の東トルキスタン軍の主たる指導者を、中ソ両国で次々と殺害したのだ。こんな殺害法もあったと、ダミアン氏は語る。
「中華人民共和国の建国を祝う式典に軍の最高指導者ら五人が招かれました。5人はウルムチからアルマト経由でウラル山脈を越え、北京に行くつもりで、ソ連の用意した飛行機に乗りました。しかし、誰も北京には着かず、全員が忽然と消えた。5人は中ソ両国に謀られて殺されたのです。その直後、毛沢東は東トルキスタン政府の首相を指名し、3万の軍隊は陰湿な方法で解体、殲滅されました」
55年に東トルキスタンは、中国共産党によって新疆ウイグル自治区とされた。
「途端に漢民族の大移住が始まりました。50年に30万人だった漢民族は99年には、彼らの統計で約690万人、23倍に増えました。これでも過小評価です。私たちの統計ではウイグル自治区の人口は漢民族2,000万人、ウイグル族1,500万人。まさに漢民族に席巻されているのです」
ウイグル族への弾圧の過激化は漢民族の大量流入と比例する。まず影響力の強い知識人らが逮捕され、語るのも憚られる拷問が日常化した。知識人らは周辺の中央アジア諸国に逃れ、その数は100万人を下らないとされる。
ダミアン氏らの訴えは、世界に大発信される中国共産党の歪曲情報によって掻き消されがちだ。しかし、押しつぶされがちな彼らの声をこそ、今、福田康夫首相をはじめとする日本の私たちは聞かなければならない。(『週刊ダイヤモンド』)
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