町村官房長官は福田首相よりも北朝鮮に厳しいスタンスをとることが多い。26日の記者会見で横田めぐみさんの生存に関する一部報道を批判し、「本人に取材がない記事で誠に遺憾だ。相当の意図を持って記事がつくられたとしか思えない」と指摘した。
一部報道とは毎日新聞の記事だが、毎日を購読していない人たちには何のことか、よく分からなかっただろう。次の共同記事を扱った地方紙にも戸惑いがみえる。
<町村官房長官は26日の記者会見で、北朝鮮による拉致被害者の地村富貴恵さんが横田めぐみさんの生存を94年6月時点で確認していたとする一部報道に関し「富貴恵さん本人に今朝確認したが『まったく承知していない。証言は行っていない』と明確に否定した」と明らかにした。報道は、富貴恵さんが政府側に「(めぐみさんは)94年6月に隣に引っ越してきた」などと証言したとしている。(共同)>
地元の新潟日報が追加取材をしているが、肝心の毎日記事がないから、これも何となく物足りない。毎日記事はかなり大きくページを割いている。
<横田めぐみさんが1994年6月以後も生存していたと、拉致被害者の地村富貴恵さんが証言したとする一部報道について、めぐみさんの両親には26日朝、内閣府から否定の連絡が入った。
母早紀江さん(72)は「地村さんと会ったときも、そんな話は聞いたことがなかった。私たちは最初から、めぐみが元気でいると思っている。小さなことに振り回されない」と語気を強めた。父滋さん(75)は「新しい動きにつながるとは考えていない」と冷静に話した。(新潟日報)>
このやりとりだけをみると記事を読まされる方が消化不良を起こしそうになるが、毎日記事が生まれる背景がある。27日からヒル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)が訪朝するが、日本の拉致問題が俎上に上る可能性が取り沙汰されている。
日朝国交正常化の推進派からは、「よど号」ハイジャック事件(1970年)の実行犯(元赤軍派メンバー)らの日本送還、北京でめぐみさんの娘キム・ヘギョンと横田滋さん、早紀江さんが対面する計画、新たに数人の拉致被害者の送還・・・といった情報が洩れてくる。
ブログの中には「数人の送還で”手打ち”か」といった観測まで流れた中での毎日記事である。日本の対北経済制裁は解除、万景峰号の往来が再開、北朝鮮へのエネルギー支援といった北朝鮮政策の転換が、拉致問題の一部解決で図られるという懸念が高まっている。
毎日記事に対して町村官房長官が異例ともいえる批判をしたのは、ヒル訪朝に対する政治的牽制ともとれなくない。そう簡単に”手打ち”はできないというメッセージであろう。本来なら毎日の勇み足、地村富貴恵さんに確かめを怠った虚報で黙殺してもよい記事だが、底流にある日朝和解促進派の動きが予想以上に活発化しているので、官房長官として一言いわねばならなかったということではないか。
その後の毎日記事は何となく力がない。この情報を洩らしたニュース・ソースは、それなりに確信があって喋ったという。まだ尾を引きそうな話題である。
<拉致被害者の地村富貴恵さん(52)が横田めぐみさんに関し、「(北朝鮮が「死亡」したとする2カ月後の)94年6月に自分たちの隣に引っ越してきた」と証言したとの毎日新聞の報道について、町村信孝官房長官は26日午前の記者会見で、「政府として(富貴恵さん)本人からそういう旨を聴取した事実はない。本人にも今朝確認したが、そのような証言はしていないと明確に否定した。誠に遺憾だ」と話した。
また、横田滋さん(75)は26日朝、川崎市内の自宅前で取材に応じ、「(生存が確認された時期が)2、3カ月延びたからといって、十数年後の(今の)事情が変わるわけではない」と冷静に受け止めた。拉致被害者家族会の増元照明事務局長(52)は「情報は使い方次第なので、政府は(日朝交渉などで)有効に活用すべきだ」などと話した。(毎日)>
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