1906 挑発的・冒険的な中国の軍拡(上) 翻訳:平井修一

米上院外交委員会は5月15日、米中関係についての公聴会を開催した。カート・キャンベル博士(新アメリカ安全保障センター代表)は「中国の挑戦とアジア:アジア太平洋地域におけるアメリカの戦略再構築のために」と題する講演をした。その一部、「中国軍の近代化について」などを抄訳する。
中国軍の近代化について:
中国が「海中に潜水艦基地を造っている」という最近のニュース報道は、まさにジェームズ・ボンド映画を思い出させます。中国は軍隊を秘密裏に築き、近代化してきました。インドと日本のようなアジア地域の列強は想定していなかったでしょうが、中国は台湾海峡での偶発事態への対処能力を向上させるために数10億ドルの投資を続け、それが地域の不安を煽っています。
国防総省の年次報告によると中国の軍隊に関する2007年3月4日の状況は、「2006年比の予算は17.8%増、実質19.47%の増加」でした。この数字は、中国の経済成長を上回るもので、過去5年間に年間平均15%増を続けています。
1990年代後期から、中国政府は人民解放軍(PLA)の近代化・強化を進めてきました。中国の国防費に関する透明度の不足は問題視されていますが、多くの外国のアナリストの見積りによれば、2007年の軍関連の出費は970億ドル(9兆7000億円)から1390億ドル(13兆9000億円)だろうと見ています。公式には軍の研究開発、核兵器と大きく占める外国の武器輸入を除いて450億ドル(4兆5000億円)と言っていますが、実際はその3倍だろうと言われています。
中国の大々的な軍の近代化にもかかわらず、彼らはまだ公的に「大戦略」を明瞭に表現しており、トウ小平の「二十四文字方針」(*)のもと、非対決戦略の方針を進めています。(*訳注:「冷静に観察する」「沈着に対処する」「足場をしっかり固める」「能力を隠し時間を稼ぐ」「姿勢は低く」「必要な事をやり抜く」)
正確な数字が何であれ、イラクと旧ユーゴスラビアでの米国が率いる軍事作戦は、明らかに中国政府に最新の能力向上、正確な攻撃、いわゆる軍事革命(RMA、revolution in military affairs)と関連した動きを促しました。
たとえば、人民解放軍は中国の国境を越えて展開できる緊急対応部隊を強化し、そして、人民解放軍海軍(PLA-N)は長距離攻撃とミサイル防衛システム、より機密性が高く作戦上効率的な潜水艦能力を確保しました。
中国の戦略家は、人民解放軍が敵の軍事力、例えばアメリカの複雑な情報テクノロジーに対して、非対称戦争(訳注:正規軍対正規軍ではなく、正規軍対テロリストなど)での脆弱さを利用するためにニッチな武器、すなわち「テロの手法」を開発しようともしています。
中国は伝統的に弱かった自国の防衛産業の発展を図る一方で、急速な経済成長により武器輸入が拡大しています。ロシアは特に熱心な売り手です。中国が最近獲得したロシアの武器体系には、先進の軍用機(例えばSu-27とSu-30)、海軍システムでは、SS-N-22対艦ミサイルを備えるソブリン級ミサイル駆逐艦を含んでおり、キロ級ディーゼル式攻撃型潜水艦を改善するなど、台湾に対する中国の軍事作戦能力を強化しています。
最近のIISS(訳注:英国の国際戦略研究所、The International Institute for Strategic Studies)報告によると、中国海軍は「沿岸の防衛力から進化し、大洋での作戦能力をもつものに成長した。これにより海軍の自国に対する認識、将来の方向性、中国の安全保障における役割を変えることが可能になった」。
中国海軍は、74の主要な戦闘部隊、57隻の攻撃型潜水艦、55隻の中級・重級艦船、49機の沿岸ミサイル哨戒機を含みます。そのうえ最近のレポートによれば、中国が3つの航空戦闘部隊を開発すると示唆しており、2010年までにプロジェクトをスタートするようです。さらに、中国海軍は「水平線を越えて」目標を攻撃する能力を高めており、新しいレーダーを装備し、新しいSSBN(晋級、弾道ミサイル原子力潜水艦)を開発して近く配備します。
中国は、より多くの資金を先進武器体系の開発・展開につぎこんでいます。軍は独自に大陸間弾道ミサイルDF(東風)-31とDF-31Aを開発してきました。(移動が容易という)機動性があって攻撃されにくいので、それは特に重要なメリットです。
中国空軍の近代化プログラムも続いています。中国オリジナルの戦闘機J-10シリーズは現在、第5世代の多目的J-12で強化されています。FB-7A戦闘爆撃機の近代化と同様に、これらの空軍力整備は「燃料補給なしでの台湾作戦領域」に配備されている既存の490機の戦闘機を補完しています。
中国の宇宙計画は、新しい監視、コミュニケーション、航法機能という大きな成果を得、中国の領域を越えた台湾ほかの事態に対する軍事作戦に対応しています。2007年1月に古くなった気象衛星の破壊に成功し、2007年秋に月への宇宙船発射と続き、中国の宇宙軍事力の重要な上昇を示しました。
中国の軍事増強は主に潜在的な台湾紛争によって動機づけされるように見えますが、最近の多くの動きはアメリカおよび日本、インド、東南アジア、オーストラリアに対するものです。台湾に向けられるミサイル、航空機、移動地上軍のいくつかは、中国の周辺の複数の点に展開されました。
実戦配備された地上攻撃巡航ミサイルは、中国の新しい093原子力潜水艦に装備され、限定的ではあれ世界的大国のイメージを中国に与えています。そのうえロシアは現在、人民解放軍にTu-22バックファイアとTu-95ベア爆撃機を売り込んでおり、それは東南アジアはもとより、さらに遠くの目標に対する空襲をを可能にします。多くの人民解放軍海軍指揮官は、世界的大国の伝統的なステータスシンボルである空母艦隊獲得を依然として希望しています。
ホルムズ海峡の重要なエネルギー航路の反対側に位置するグワダール(パキスタン)における中国のプレゼンスも戦略的です。ここ数年の間に、中国はペルシャ湾からバングラデシュ、カンボジア、南シナ海まで主な港に接近するため「真珠の列」戦略を進めてきました。中国の隣人たちは不安に思っています。
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