日本と北朝鮮の国交正常化交渉再開に向けた斎木外務省太平洋アジア局長と北朝鮮のソン・イルホ朝日国交正常化交渉担当大使による公式協議が6月7日から北京で再開されることになりました。
日朝間の直接協議は昨年10月に中国の瀋陽で開かれて以来8ヶ月ぶり。しかも、この動きの背景に、アメリカと北朝鮮との直接交渉が4月8日のシンガポール会談で大きく進展し、北朝鮮が望む、アメリカによるテロ国家指定解除が実現する可能性が高まっている事実があることを忘れてはならないと思います。
つまり、その公表される結果がどのようなものであっても、この日朝協議の再開が、アメリカの六カ国協議打開への期待を受け、その意を受けたものであることに注目しなければならないと思います。その点で見過ごせない資料があります。
4月中旬、北朝鮮訪問を終え、東京に立ち寄ったアメリカの北朝鮮専門家、レオン・V・シーガル氏が、私との中央公論6月号誌上でのインタービューで述べた内容がそれです。中央公論社の承諾を得て『米朝和解 ―もはや北と交渉するしか日本の道はない― 』と題して掲載されたインタービューの全文を再録します。ご一読ください。
シーガル氏は、ニューヨークの伝統ある調査機関、「米国社会科学調査評議会」の北東アジア安全保障プロジェクト部長。昨年6月の訪日時にも、私がインタ-ビューしました。
その内容は、中央公論2007年8月号誌上に ”拉致敗戦 ―日本は北朝鮮問題で致命的な孤立に追い込まれえるー“と題して掲載され、2006年10月10日、つまり10月8日の安倍首相北京訪問の二日後で、北朝鮮による10月9日の核実験の翌日、キシンジャーがブッシュ大統領の親書を持って北京を訪問、胡錦濤主席と会い、北朝鮮が核を捨てたらアメリカは平和条約に調印する用意があると告げたなどとの衝撃的な事実に満ちていました。
北朝鮮をイラク、イランと共に「悪の枢軸」と決め付け、直接交渉を拒否してきたそれまでの強硬路線からのブッシュ政権変身の実態を初めて明らかにしてくれました。この大きな反響を読んだ内容は「アメリカウオッチ」第10回(2007年9月12日付け)に収録してあります。
今回はその続編と言ったところで、シーガル氏は4月11日から3日間のピョンヤン訪問での北朝鮮当局者との会談結果をもとに、アメリカによるテロ国家指定解除を含む6カ国協議進展の可能性を具体的に指摘、拉致問題の解決には日本独自の北朝鮮との交渉しかない、との観察を明らかにしています。
シーガル氏は、エール大学卒。ハーバード大学で博士号取得後、国務省政治・軍事局勤務、ニューヨーク・タイムズ紙論説委員などを経て現職。対北朝鮮政策でのハト派の論客として知られ、“ Disarming Strangers: Nuclear Diplomacy with North Korea “ などの著書があります。私とは2004年以来の友人です。(2008年6月6日記)
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米朝和解
--もはや北と交渉するしか日本の道はない
レオン・V・シーガル/米国社会科学調査評議会北東アジア安全保障プロジェクト部長
聞き手・松尾文夫/外交ジャーナリスト
米朝の核協議は日本で想像しているより進展している。ブッシュ米大統領は十一月までに北朝鮮をテロ支援国家リストから外し制裁を解除するだろう。日本は六ヵ国協議の中で取り残された。独自に北と取引する以外に、拉致問題を解決する方法は残されてはいない。
●シンガポール合意で楽観的見通し
松尾 今回は平壌訪問を終えたその足での訪日だが、平壌行きの目的は何だったのか。
シーガル 朝鮮問題を長年フォローしている専門家として、これからの交渉の行方を探りたかったからだ。ほかの米国の朝鮮問題専門家七人とともに北朝鮮外務省の招待で四月十一日から十三日の三日間、平壌を訪問、朴義春外相を表敬したほか、ニューヨークの国連代表部で米国問題担当次席大使をしていたとき以来の旧知である李根米州局長をはじめとする外務省当局者のほか、板門店で米側との折衝に当たっている李賛副将軍にも会い、二回の夕食会を含めて熱心に話し合った。平壌行きの飛行機には、シンガポールでのヒル米代表との会談を終えた金桂冠外務次官も乗っていたが彼には会えなかった。公式の視察はすてきな新しい音楽学校に案内されただけだ。
松尾 それで、北朝鮮との直接の接触を終えて、今後の六ヵ国協議の展開をどう予想するか。
シーガル かなり早期に、次の六ヵ国協議が行われるだろう。四月八日のシンガポールでの合意を公式化しなければならないからだ。
松尾 あなたは楽観的なわけだ。
シーガル その通り。シンガポールでの合意は、北朝鮮が六ヵ国協議でプルトニウム計画を申告する、としている。また彼らはこれまでウラン濃縮活動について米国と協議してきた。その中で彼らは、獲得したアルミニウム・チューブをわれわれに見せ、ウラン濃縮用の遠心分離機を作るためには使っていないことを示した。
興味深いのは、二〇〇七年末以前に、彼らがわれわれに対して、どれくらいの量のプルトニウムを持っているかを告げたことだ。これは、われわれにとって最も重要な安全保障上の懸念に答えるものだった。この申告がどこまで真実かは、彼らがわれわれに見せることを約束した原子炉の運転記録を見るまで分からない。もし運転記録が完全なら、彼らの申告が本当かどうか確かめることができる。つまり、ワシントンの一部の人々が言っているように、彼らの言うことは何一つ検証できない、というわけではない。われわれにとって、それは可能なのだ。
松尾 運転記録を見せると言ったのか。
シーガル そう、そう言った。
松尾 だが、まだ実現してはいない。
●溶けたチューブを差し出す
シーガル その通りだ。もし、それが明らかに不完全だったら問題だ。だが、いずれにせよ彼らは記録を見せるだろう。彼らは放棄するもののリストも作らなければならない。プルトニウムの量についてはわれわれに話した。プルトニウムを生産するために、彼らがどんな施設を持っているかも明らかに分かっている。査察の対象だったからだ。
そしてウラン濃縮に関しては、われわれは彼らがすでに高濃縮ウラニウム(HEU)を持っているのではないかと心配したことは一度もない、ということを言っておきたい。爆弾用の核分裂物質を十分に生産するには、長期間にわたり多数の遠心分離機が必要であることを、われわれは知っている。彼らがいくつかの遠心分離機を獲得し、さらに増やすために、いくつかの部品をパキスタンから入手したことは分かっていた。最大の懸念は、彼らが何千本ものアルミニウム・チューブを獲得したことだった。もしそのすべてを遠心分離機作りに使えば、爆弾一個に必要なHEUを一年間で生産できたはずだった。
つまり、われわれの知らないところでアルミ・チューブがどう使われているかを知ることが非常に重要だった。これに対して、彼らが取った措置の一つが、彼らの入手したアルミ・チューブが遠心分離機作りに使われていないことを米政府に示して、納得を得ることだった。実際に彼らは昨年、一本の溶けたアルミ・チューブをわれわれに引き渡し、われわれもそれを試験し精査した。もし、彼らがアルミ・チューブを遠心分離機作りに使っていないとすれば、彼らは、われわれが心配するほどのHEU計画を持っていないことになる。それが申告プロセスを通じてわれわれがすでに到達した死活的に重要な結論の一つだ。
松尾 彼らから差し出したのか。
シーガル そうだ。だから情報にうとい連中がHEUについて話すのを聞いたりするのはやめるべきだ。彼らはみな間違っている。われわれは交渉協議と北朝鮮訪問を通じて、プルトニウムに次ぐ安全保障上の懸念、HEUに関しては、あまり計画が前進しておらず、したがって安全保障上の大きな脅威ではないことを認識している。
松尾 そういうことか。
シーガル 以上が実際の経過だが、私の見るところ、このほかに、さらにわれわれの安全保障に重要なことがある。それは彼らが寧辺のプルトニウム計画を閉鎖し、とにかく燃料棒を取り出して無能力化を開始したことだ。
ところがわれわれの側は、見返りにすべきことを、誰も行っていない。特に日本は、まったく何もしていない。ロシアは昨年十二月までに重油五万トン供給するはずだったが、引き渡しが遅れている。実際、二月末まで到着しなかったのではないかと思う。
さらに中国と韓国も、北朝鮮の通常型発電所の改善に必要な鉄鋼やその他の資材の形で、エネルギー供給に匹敵するだけの援助を行うことになっているが、両国とも引き渡しが遅い。そして米国には、対敵通商法に基づく制裁の緩和プロセスを促進することによって、約束した政治的代償を実行するという課題がある。
松尾 徹底した行動対行動の取引ということか。
シーガル そうだ。北朝鮮がわれわれに何を期待しているかを探り、それについて話し合うことが第一だ。核兵器を持っていること以外は誰よりもひどく弱い立場にある彼らとの交渉では、何か見返りを出さなければ何も得ることはないということだ。
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