モンゴル総選挙、流血と争乱、混乱の巷へ。鉱物資源が眠るゴビ砂漠開発と外資導入が政策論争の争点だったが。
ウランバートルは砂漠のオアシス。行くと衝撃を受ける最初の珍事は、えっ、砂漠の真ん中の交通渋滞である。
チンギスハーン空港から市内の直前までは羊、牛、ヤクなどが優雅に道路を歩く。市内へ入るや、どっと渋滞、ひとつの交差点を越すのに十分、十五分かかる。クルマの洪水、遊牧民は駱駝と馬より、近代文明の利器を選んだ。
08年6月29日にモンゴル国民大会議(国会、定数76)の選挙が行われ、旧共産主義政党「人民革命党」が大勝したと伝えられた。
与党=人民革命党は露西亜の影響が強く残存するが、獲得議席数は過半を超えて46,逆に最大野党の民主党(改選前議席23)は現状維持にとどまった模様、選挙管理委員会は7月10日に最終結果を公表する、とした。
冷戦の終結を機に旧ソ連の楔から解き放たれたモンゴルだが、ガソリンと生鮮食糧品の急騰による猛烈インフレで国民の不満が高まっていた。
貧民窟には羊肉しかなく、最大のスーパーマーケットには海外のあらゆる贅沢品が揃うが、これは韓国企業経営。その豪華スーパーの隣りに聳える最高級チンギスハーンホテルは五つ星、なかで食事をすると銀座並みの料金。
貧富の差の激しさ!窮地に立った与党・人民革命党は人気の高いバヤル氏を突如、党首に起用し、鉱物資源法の改正案を提出した。
これはモンゴル有数の財産=ゴビ砂漠に眠る銅、石炭、金などの開発と収益の分配を国民に還元するとしたことで与党への支持が拡大していた。
メディアが与党よりなので、「国民へ還元」というスローガンが利いた。
そのうえ、前回(04年)総選挙で両党ともに過半数に届かず政治的混迷が長期化したことを国民が嫌っていた。
日本で話題となったのは大相撲力士の立候補である。
ウランバートルで野党・民主党から立候補した大相撲元小結の旭鷲山(ダバー・バトバヤル)はトップ当選した。
余談だがウランバートル市内に林立する広告塔は、旭鷲山と白鵬ばかりで、かの横綱・朝青龍のCMは滅多にお目にかかれない。
旭鷲山は06年に大相撲を引退しモンゴルへ帰国、実業家に転身していた。ウランバートルで評判を聞いたが、特段に良かった。
かれは深刻な貧富の格差、環境汚染に立ち上がって政界進出を決心した。選挙区は定数4議席に対して、23人が立候補した激戦区だった。抜群の知名度でトップ当選を果たした。
▼ゴビ砂漠の鉱物資源は誰のものか?
さて7月1日時点の、中間集計の段階で野党・民主党党首のエルベグドルジ(元首相)は「ウランバートル市内の二つの選挙区に不正があった」と批判をはじめた。このため、最大規模の争乱が起きた。
各地で抗議デモが展開され、ウランバートル市内の与党・人民革命党本部に野党支持者とみられるモブが投石をはじめ、放火した。
付近に駐車していたクルマが横転させられ放火、手の付けられない状態となって1500名の警官が動員された。
警官隊は催涙ガス、ゴム弾、放水で応じたが負傷者が相次ぎ、日本人ジャーナリストが重傷を負った。
エンフバヤル大統領は7月1日、非常事態宣言(夜間十時ー五時は戒厳令。民放のテレビ放送を禁止)をだした。
モンゴルはアラスカほどの広大な領土に人口は僅か五百万。一人あたりのGDPは1500ドルとされる。
唯一の外貨収入である鉱物資源は、これまでにも外国資本(とくに中国)との黒い噂が絶えず、これが対中国非難に繋がっていた。
「与党の改正案は鉱区開発への外国資本呼び込みと利益の還元をモンゴル有利にしようとするもの。対して野党は政府が開発費を投じた鉱区はあくまで51%以上を政府が所有するとして譲らなかった」(ワシントン・タイムズ、7月2日付け)。
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