このところ日本料理からアニメまで、日本文化が世界に大きな影響をおよぼしている。
私は海外に出るたびに、洋食が苦手だった。オードブルとスープのあとに、魚の大きな一切れ、またまた肉の塊が乗った皿が続く。それを不(ぶ)様(ざま)な工具のようなナイフ、フォークを使って食べるから、興を削がれる。
ところが、洋食もこの20年あまり新料理(ヌーボークジン)といって日本料理を真似て、小さなポーションをあしらった料理が7、8皿、供される。
それまで日本以外で皿といえば、世界どこへ行っても円形のものなのに、今では四角などの変形の皿が用いられるようになった。
夏目漱石は『草枕』の主人公に、「西洋の食物で色のいいものは一つもない。サラド位だ。画家から見ると、発達せん料理だ。そこへ行くと、日本の献立は物奇麗(ものぎれい)だ。眺めたまま帰っても、御茶屋へ上がった甲斐(かい)がある」と言わせている。ヌーボークジンは和食のように、見た目にも配慮している。
料理だけではない。私には何のことやらよく分からないが、若者の間で日本のマンガ、コスプレ、J(ジャパン)・ロックが流行している。
日本のマンガは英語などにそのままmangaと書かれて、仲間入りしている。青い眼のマンガ作家も現われている。
日本文化の美意識や、繊細さが評価されるようになっている。
幕末にヨーロッパの画家たちが、浮世絵を競って模倣するようになってから、日本文化による影響がジャポニスムと呼ばれている。
ジャポニスムは、ルノワール、ピサロ、ロートレック、ドガ、モネ、ゴッホ、ゴーギャン、ムンクをはじめとする作家たちに、深奥な影響を与えた。
日本は近代建築にも、大きな影響を及ぼした。ブルーノ・タウトが伊勢神宮の内宮を訪れて、外容と内容が一致しているのに驚いて、「稲妻に打たれたような衝撃をうけた」と書いたのは、よく知られる。
ジャポニスムの強い影響を受けた建築家として、タウト、アドルフ・ルーズや、リチャード・ジョセフ・ノイトラが有名である。
ノイトラは日本を訪れて帰国すると、「私の感性と、完全に一致した。私は生涯求めてきたものに出会った」と、絶賛した。
タウトは「日本のヨーロッパへの影響は、甚大だった。ヨーロッパ建築の簡素化に最も強い推進力を加えたのは、簡素で自由を極めた日本建築であった」と、述べている。
それまでの西洋建築は、外装(ファサード)に彫刻が施されて、デコレーションケーキのように飾りたてられていた。二十世紀に入ると新建築運動が興って、外容と内容が一致した機能的なビルが生まれるようになった。
今日の虚飾を省いた、機能的な西洋家具も、日本の影響を強く受けたものだ。
日本人は善悪よりも、美を尺度として生きてきた。美意識が突出して発達している。
安土桃山時代にザビエルなどのキリスト教宣教師が日本を訪れてから、明治にいたるまで、西洋人が筆を揃えたように、あらゆる階層の日本人が正直であることに感嘆している。私たちが美をもって、生活態度を律してきたからである。
日本人は人として外を飾ることがなく、外容と内容が一致していた。
そういえば、お隣の中国は、古代に紙、火薬、羅針盤を発明したが、近代世界に与えた文化的な影響が何一つない。
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