2041 道州制の論議に欠けているもの 花岡信昭

自民党の道州制推進本部(本部長・谷垣禎一政調会長)が4日、第3次中間報告を発表した。政府の道州制ビジョン懇談会(座長・江口克彦PHP総合研究所社長)もことし3月に中間報告を発表しており、来年度中に最終報告をまとめる予定だ。
衆参ねじれ構造の中で政権運営に苦慮している福田政権の現状を見る限り、道州制導入論は浮世離れした構想のように見えるかもしれないが、今後の国の方向を決定付ける最重要テーマであることに変わりはない。
政治状況の次第によっては、一気に現実味を帯びる可能性もある。自民、民主両党を中心とした「大連立」が実現していたら、早期に歩み寄りが可能な課題の一つでもあった。
そこで、道州制をめぐる論議について、不十分と思われるポイントをいくつか考えて見たい。
自民党の第3次中間報告では平成29年までに道州制を導入するとし、全国を9か11に分ける4種類の区割り案を提示した。平成18年に第28次地方制度調査会は9、11、13に区割りする案をまとめており、大筋では、全国を10前後に分けることになりそうだ。
道州制は明治の廃藩置県を「廃県置州」に転換させるものだ。現在の47都道府県は、東京都を別にすれば、国と対等にわたり合うためにはあまりに小さすぎる。
政府の道州制ビジョン懇談会は、基本理念として「地域主権型道州制」という表現を用いて、「時代に適合した『新しい国のかたち』に―中央集権型国家から分権型国家へ」と打ち出している。
その基本的な方向に異論はないのだが、論議に欠けていると思われるポイントの一つは、国家の役割をどう位置づけるかという点である。
「国―道州―市(町村)」という3層構造にするわけで、その場合、思い切った「小さな政府」にしないと道州の位置付けが明確にならない。
政府のビジョン懇談会は、国の役割を、国際社会における国家の存立及び国境管理、国家戦略の策定、国家的基盤の維持・整備、全国的に統一すべき基準の制定に限定する―として、皇室、外交・国際協調、安全保障・治安、通貨・金利、通商、資源エネルギーなど16項目をあげている。
その一方で、道州の役割については、公共事業、学術文化、経済・産業振興、雇用、公害、福祉医療などを掲げている。
このあたりが、国民の間には明確に伝わっていないのではないか。簡単にいってしまえば、国は国でなくてはできないことだけをやるという発想である。この基本方向にも異存はない。
いわば、「21世紀型の夜警国家」といったイメージである。道州はこれまで国がやっていた「生活」関連行政のほとんどを担うことになる。
かつて、行政改革の必要性を説くための一例として、「バスの停留所を10メートル動かすだけでも国の許可が必要」といったケースが使われた。国がそれこそ「箸の上げ下ろし」にまで口を出し、あらゆることを抱え込んできたのであった。
道州制によって、中央政府と地方道州政府(おそらく呼称は「州庁」となると思われる)が並存する構造に転換するのだ。公務員も国家公務員、道州公務員、市(町村)公務員の3段階になる。
現在は国家公務員と地方公務員にはかなりの落差があるような印象を与えているが、道州制導入時には、国家公務員のかなりの部分が道州に移籍し、ほとんど「同格」となるはずである。
道州のトップである長官もしくは知事は、当然ながら選挙で選ばれる。そこから、もう一点、指摘しなくてはならないポイントが出てくる。
いくつかの県を合わせた規模の地域を対象に行われる選挙だから、「地方大統領」的な色彩が濃くなる。いまの県知事のイメージとは格段に違う。
考えようによっては、議院内閣制によって、衆院で多数を占めた政治勢力から選出される首相よりも、地域住民が直接選ぶという点で、その存在感は強大なものになるかもしれない。
おそらく、「州長官」選挙は人気投票的な要素も強まるのではないか。現在の政治状況を考えると、ポピュリズム(大衆迎合)の危うさを懸念しなくてはならない。とりわけ、防衛・安全保障・危機管理といった側面で、ときの政府の方針と「州長官」の食い違いが出る恐れがある。
早い話が、国家的有事にさいして、「州長官」が「わが州では戦車は走らせない」といった態度に出る可能性だ。現憲法では首相に「非常大権」は与えられていない。
そうしたことが現実に起きた場合、首相に「州長官」の罷免権を付与することになるのかどうか。そのあたりの論議はいかにも生煮えである。
さらに、道州制と参院の関係も論議を深めてほしいポイントだ。道州制への期待の一つとして、参院を道州の代表者によって構成される院とするという構想がある。アメリカの上院型である。
アメリカでは1州から2人の上院議員が選出されるが、日本の場合、10州前後になるのなら、各州で5-10人程度の参院議員を選べばいい。
現在、参院の総定数は242議席だが、これが実現すれば半分以下になる。これほど分かりやすい「改革」はない。道州代表だから「1票の格差」があってもかまわない。参院が政局に介入する余地はせばまり、現在のようなねじれ構造による弊害もなくなる。
もちろん、参院をこうしたかたちに変革するには、憲法改正が必要になる。「9条」でぶつかり合っていて改正論議が進まないのであれば、参院改革を改正の入り口にするという発想も出てこよう。これもまた、道州制のもたらす大きな効果といえる。
もう一点。なぜ、「道州」という呼称を使わなくてはならないか。いうまでもなく、北海道があるためだが、基本的には「州」制度の導入であって、北海道が北海州になってもおかしくはない。むしろ、紛らわしさを避けるためにも「州」で統一したほうがいいのではないか。
北海道だけでなく、東京都、沖縄県を単独の州とするという構想もある。沖縄をどうするかは、なお議論の余地がある。米軍基地を抱え、「本土」とは違った政治意識を示すことの多い沖縄だが、国家レベルの安全保障を考えたら、国の直轄地域として別格扱いにするという考え方も出てこよう。
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