福田改造内閣と党役員人事は「永田町的」感覚からすれば、なかなかの布陣である。実力派、政策通をごそっと並べた。
そういってはなんだが、首を傾げたくなる人は1人もいない。福田首相は巧みに周到に、この人事を練り上げたといっていい。
だが、そういう感覚が一般には通用しにくいところが、福田政権の苦境を象徴している。「平時」であれば、相当の評価が与えられていい布陣なのだが、さて、これで起死回生の政権浮揚効果は出るか。
党四役の顔ぶれは重厚そのものといっていい。
麻生太郎氏は「結党以来の危機にある自民党」を救う役割を担うとして、「政敵・福田」の誘いに乗った。国民的人気は福田首相をはるかに上回る。「ドロ舟とともに沈みかねない」という周辺の懸念を承知のうえで、「男気」を示して見せた。
笹川尭総務会長、保利耕輔政調会長、古賀誠選挙対策委員長を加えた四役は、いまの自民党で考えられる最強といってもいい顔ぶれである。
保利氏は入閣した野田聖子氏とともに郵政造反・復党組だ。党と内閣に造反組を起用することで、福田首相は郵政解散以来の党内の亀裂に終止符を打った。
追い込まれての改造であっただけに、「小幅に終わるのではないか」という観測も強かった。だが、フタを開けてみたら、閣僚17人のうち留任は4人だけである。これほどの「大幅改造」になるとは大方は予測していなかったのではないか。
消費税増税の必要性を強調する財政再建派の筆頭、与謝野馨氏を経済財政相に起用した。上げ潮派の中川秀直氏が入閣を果たせなかったのは、町村信孝官房長官との関係と、やはり過去の醜聞が響いた。
これによって、福田政権の財政経済政策は変わるのかどうか。たばこ増税の急速な盛り上がりなどによって消費税論議を先送りした福田首相だが、与謝野氏主導の政策転換が行われるのかどうか。そこが不透明な要素として残る。
町村氏の留任は、福田首相にとっては不本意だったに違いない。だが、町村、中川、谷川秀善(参院)3氏の代表幹事制をとっている町村派(そういう呼称になっているが、正式には「町村中川谷川派」ということになる)は、事実上、中川氏が仕切っている。そこへ町村氏が派閥復帰すれば、町村、中川両氏の確執に火がつき、派閥分裂の危機を招きかねない。
鈴木恒夫文部科学相は悲願の入閣だ。毎日新聞出身。当選6回だが、選挙にあまり強くない。麻生氏が強力に推したのではないか。
保岡興治法相、二階俊博経産相、伊吹文明財務相ら実力派が並ぶ。林芳正防衛相、茂木敏充金融行革担当相らは政策通として知られ、中山恭子拉致問題・少子化担当相の入閣は「家族会」などには強力な援軍を得たものとして映るだろう。
公明党は国土交通相に固執せず、環境相に甘んじた。不祥事で追及されることの多い国土交通相を「捨てて」、軽量ポストを受け入れたわけだ。そこに、公明党のイメージダウン回避の思惑と、福田政権との微妙な距離感が浮かぶ。
さあ、この改造によって、福田政権は浮揚するのかどうか。改造のチャンスを逸してきて、追い込まれた挙句の改造だが、出来上がりぶりは、正直言って、これほどの陣容になるとは思わなかった。それが最大の「サプライズ」である。
<<朝刊で「麻生幹事長」を当てたのは>>
政治記者時代を振り返ると、人事の取材が最も難しかった。企業でもそうだが、政治はまさに人事がすべてという側面がある。政治メディアは、人事となると、異様なまでの力を入れる。
で、改造が行われる直前の1日朝刊で、各紙はどんな見出しを取ったか。(いずれも東京発行最終版)
・朝日 麻生氏に幹事長打診 町村長官留任の方向
・毎日 きょう大幅改造 町村長官は留任
・読売 内閣きょう改造 町村長官留任へ
・産経 「麻生幹事長」打診 町村長官留任へ
・日経 首相、きょう内閣改造 町村官房長官留任へ
・東京 首相きょう内閣改造 公明「1増」打診に難色
「麻生幹事長」にさわっていたのは、朝日と産経である。この両紙の勝利ということになる。
人事の前打ち原稿では、「へ」をつけるかどうかで悩むことになる。「留任」と断定する自信がなければ「へ」あるいは「も」「か」をつける。「の方向」「の線」というのもある。
締め切り直前で、デスクの「へかもか、なしか」といった怒声が飛び交ったものだ。
そういう見方で各紙をながめると、それぞれの政治取材の現場のぎりぎりと胃が痛くなるような思いが伝わってくる。
朝刊の次は夕刊の勝負だ。産経は東京で夕刊を廃止してしまったが、夕刊にどこまで予想閣僚リストを入れることができるかで、政治部の力量が問われることになる。
かなり昔、ということにしておこう。ときの首相にえらく強い先輩がいた。その首相は私邸からあちこち電話して組閣の骨格を練り上げていった。
その先輩は私邸に出入り自由の身だったが、さすがに、首相が電話している部屋からは遠ざけられた。だが、親しい秘書が次々に耳打ちしてくれる。
「いま○○に電話している。ポストは△△らしい」
当時は携帯電話などなかったから、その先輩は台所に入り込んで、そこの電話を使って社に速報した。
夕刊ではほぼ全閣僚をぴたりと当てて、圧勝した。古きよき時代には、そういうことも可能だった。
夕刊で朝日は二階氏を総務会長留任としてしまった。四役の表を入れたので、この読み違いがいちだんと目立つことになる。ことほどさように、人事記事は難しい。
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2105 平時なら「実力派ぞろい」なのだが 花岡信昭

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