五月に岩手県の西和賀町に行った時に知り合いの人から冷えた山羊の乳を貰った。温泉から出て山羊の乳を一気に飲んだが、牛乳のように下痢をしない。戦時中に信州に疎開したが、農家に勤労動員で駆り出されて、唯一の楽しみは白米の大きなおにぎりと山羊の乳であった。
戦争が終わって、その農家を訪ねてまた山羊の乳をご馳走になった。あれほど美味しかった山羊の乳だったのに、独特のにおいがきつくて閉口した。食糧難で腹を減らしていた戦時中には美味しかった山羊の乳だったのに・・・。
その経験があったので、山羊の乳といわれて最初は少し困った。しかし人の好意を無にするものでない。鼻をつまんで飲んだのだが、独特のにおいがしない。翌朝、ホテルの食堂で、その話をしたら「殺菌のために沸かした乳を、すぐ冷蔵庫にいれて冷却すればにおいが消える」と教えて貰った。
岩手県には山羊を20頭以上も飼育している酪農家がいるという。山羊の乳を愛好するグループもあるという。
山羊乳は牛乳に比べて、脂肪球が小さいため消化吸収がよく、乳糖が少ないため下痢になりにくいなどの長所があることから「身体にやさしい山羊の乳」と見直されているそうだ。山羊の乳から作ったアイスクリームやヨーグルトもあるという。
山羊の乳に含まれているタウリンは牛乳の二〇倍。タウリンは栄養ドリンク剤の主成分になっているが、疲労回復、動脈硬化の予防やコレステロールの低下などに効果があるそうだ。
こうなると”いいこと尽くめ”の山羊の乳だが、一般には広まらない。山羊と聞いただけで消費者から敬遠されてしまう。牛乳が飲めない愛好家の間で珍重されている程度だ。においがしない山羊の乳を売り物にする温泉旅館がないのだろうか。
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2107 人の母乳に近い山羊の乳 古沢襄

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