友人の松尾文夫氏が6月15日から7月3日にかけてアメリカを東から西へ18日間の旅をして、実感したのは日米同盟の実質的な空洞化というテーマだったと言っている。
その空洞化の現実にじかに接した二点をとりあげていた。
一つは、6月26日、ブッシュ大統領自らが発表した北朝鮮をテロ国家の指定からはずす手続き開始の声明について、アメリカのマスコミ報道は、ブッシュ大統領の福田首相への「拉致問題は決して忘れない」との電話や、声明中での日本政府への”配慮”の部分などを一切無視したという事実。これは見事と言っても良いほど徹底したものだったという。
松尾氏はサンフランシスコにちょうど滞在中で、翌日の27日付の地元サンフランシスコ・クロニクル紙はもとより(同紙は提携先のワシントン・ポスト紙記者の記事を使用していた)、最近では全米各地で印刷されながら、ロスやシスコでさえ、大型書店か特定のホテルなどでしか入手ができなくなったニューヨーク・タイムス紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙など東部の新聞も探して手に入れ、関係記事に細かく目を通した。しかし日本の拉致問題の言及は一切なかった。
5年前、北朝鮮をイラク、イランとともに「悪の枢軸」と決めつけたブッシュ大統領の思い切った”変身”について、保守派、リベラル・人権派双方からの批判をかなり詳しく伝え、全体として北朝鮮核問題の解決に悲観的な分析が目立ったにも関わらずである。
テレビも解説者が大きく取り上げ、保守派のフォクス・テレビなどは、識者座談会で、ライス国務長官の宥和路線をこっぴどくやっつけていたものの、拉致問題を抱える同盟国日本への悪影響に言及する人は、いなかった。
松尾氏が目にした限りでは、「日本はこれで拉致問題解決のための最も効果的な梃子を失うことになる」と伸べて、初めて日米同盟への悪影響という視点をあきらかにしたのは、6月30日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙オピニオン頁に「ブッシュ北朝鮮政策の悲劇的な終焉」と題して寄稿した元ネオコンで、ブッシュ政権から完全に干されているボルトン元国連大使の論文だけであった。
もう一つは、さらに構造的に深刻な問題だという。いまアメリカの有力シンクタンクで、CSISなど一部の例外を除いて、きちんとした日本問題専門家の姿が見えなくなっているという。
松尾氏はロスでその本部を訪問し東アジア専門家グループと討議を行った。誰でも知っているアメリカシンクタンクの元祖のような組織なのだが、終わって名刺を整理していて気がついたのは、本格的に日本問題を分析している専門家は一人もいなかったという事実であった。中国、韓国専門家の発言が活発だった。
その次の夜に松尾氏の講演会を聞きに来てくれた参加者の一人に確認すると、現在、日本問題を分析している専門家の在籍ゼロですと、はっきりその事実を認めた。七月二十三日のブログで松尾氏は報告している。
松尾氏のレポートを読みながら、最近の二つの事実を関連づけて考えた。
一つは北朝鮮に対する米国の「テロ支援国指定解除」である。拉致問題の解決なしのテロ指定を解除することに反対している同盟国・日本の要望は一顧だにされていない。北朝鮮のテロ行為に一番影響されているのは日本である。
ブッシュ大統領は八月十一日から指定解除を米議会に通告して間もなく発効する。仮に北朝鮮が合意事項を遵守せずに十一日からの発効が延期されても、それは単なる延期に過ぎない。日本の意思や懸念が無視されている。
もう一つは竹島をめぐる米側の態度変更である。訪韓を控えていたブッシュ大統領が米政府機関の竹島の地名を「韓国領」と再修正させる措置を取った。李明博大統領から感謝されたが、日本の意思は無視されている。
日本も米国から軽くみられたものである。放っておいても”どこまでもついていきます下駄の雪”とみられているのだろうか。
少し話がズレるかもしれないが、国際貢献の名のもとに行っているインド洋における給油活動は思い切ってやめてしまったらどうだろう。一寸の虫にも五分の魂がある。
高騰している石油もそうだが、日本海の波が高くなっている時にインド洋にわざわざ海上自衛隊の艦艇を派遣する必要があるだろうか。世論調査でも半数以上が派遣に反対している。
自民党の麻生太郎幹事長は5日の報道各社のインタビューで、海上自衛隊のインド洋派遣を継続する新テロ対策特別措置法改正案について、衆院再可決による成立を前提とせず、野党側の理解を得られない場合は給油以外の貢献策に切り替えることも検討する考えを表明した。
給油以外の選択肢として、海上自衛隊によるシーレーン(海上交通路)の安全確保策などを検討すべきだとの認識を示した。どのような方法があるのか分からないが、アメリカに一泡吹かせてやりたい誘惑に駆られる。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(7月26日現在2096本)
2124 日米同盟が実質的な空洞化へ 古沢襄

コメント