一面でも社会面でもなく、スポーツ欄の下のほうに写真もなく控えめながら、ビッグニュースを伝える記事を見つけた。
「菅原7位入賞 日本勢初個人8強」の文字(産経新聞 8/12)。
日本フェンシング協会のHPでも「初のオリンピック個人種目入賞です!」と一行あるだけで、歴史的な快挙にしては活字が小さい。
快挙のヒロインは菅原智恵子(31)。
筆者は大学時代、仲のよかった友人に騙されてフェンシング部に入部。授業は友達に代返を頼んで専ら体育館通いに明け暮れていたことがある。練習フロアが一緒だった剣道部の連中からは、「西洋チャンバラ」とコケにされたものだったが、目指すはハリウッドで活躍したアクション・スター、エロール・フリン張りの剣さばきだった。
といえば格好はいいが、当時、中央大学に目の醒めるような美人剣士がいて、合同練習試合が楽しみだった。
それはともかく、この経歴がものをいって、東京オリンピックでは、勤務地の札幌から東京に長期出張。大学時代の練習場を会場としたフェンシング競技の取材に駆り出された。
毎日、競技取材に通ったが、その頃の日本選手は「出ると負け」で、原稿は書けども書けどもボツ。テレビに出てくるのは共同配信のスコアのみ。弱いマイナースポーツの悲しさ、その後もずっとベタ記事で結果を見るだけのオリンピックだった。
あれから幾星霜。この競技がまともの取り上げられたのを見たことがない。それでも放送予定を探したら、快挙を報じる映像VTRがありました。
菅原の相手はドイツの某。敵は世界ランキング6位。案の定、どう見ても劣勢だ。それが、である。
<ベスト8が懸かった個人の3回戦。菅原が格上に鮮やかな逆転勝ちを演じた。0―3で迎えた最終第3セット、脅威の粘りで5―5に追いついた。一本勝負の延長戦は開始20秒、巧みな剣さばきで前に出る世界ランク6位のゴルビツキー(ドイツ)の剣を外し、至近距離からカウンターを決めた。 スポットライトが当たるピット上で、「やー」と歓喜の叫びを上げた。五輪史上、日本初の個人戦入賞が確定した瞬間だ。>(河北新報ウェッブ版)。8強、7位入賞だった。
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe185/news/20080812_004.htm
バドミントンで「オグシオ」が完敗したのに対し、ノーマークの末綱総子・前田美順組が世界ランク一位の中国を逆転で下し4強にかけのぼった。中国のニュースサイトは「北京五輪最大の番狂わせ」と報じたそうだ。
「ママでも金」の敗退と並ぶ番狂わせだが、菅原の勝利は、日本女子フェンシングにとって番狂わせ、歴史的快挙である。フェンシングはヨーロッパでは歴史と伝統のあるオリンピック種目である。ドイツの新聞がどう伝えたのか見たいものだ。
なのに、日本ではどこも扱いが地味なのは、私としては納得がいかない。オリンピックは、予想を裏切るところに醍醐味がある。こんなとき、雑感記者のウデの見せ所でもある。産経の記事が泣かせる。
<宮城県の高校教諭として臨んだ前回のアテネ大会では二回戦敗退。昨年夏から休職して、フェンシング漬けの生活を送った。応援席の両親に晴れ姿を見せた。「田んぼを売ってまで私を支えてくれた両親が、今日の結果を喜んでくれたのが嬉しい」。来春、教職に戻る先生は微笑んだ。>
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2141 歴史的快挙、女子フルーレ 石岡荘十

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