2153 不気味な遊泳つづける習近平 宮崎正弘

次期総書記に最有力の習近平はなぜ静かにしているのか?それでも実績を着実に積み上げて政治家の地歩を安定させている。
習近平は国家副主席に就任してから最初の外国訪問を北朝鮮にした。なぜか。「共産主義ですよ!私は!」と内外に見せつけるためである。
中国共産党のヒエラルキーで、実質第六位(政治局常務委員、序列六位)とはいえ、次期後継と言われれば言われるほど、中国で危ないポジションはないからだ。
毛沢東は次期後継を自ら指名しておきながら次々と失脚させた。
劉少奇は河南省開封の病院で凄惨なリンチのあと息を引き取った。
林彪はなぞの「航空機事故」で死亡。周恩来は茶坊主に徹したが、最後は癌とわかっても満足な治療を受けられないように毛沢東は命じていた(ユン・チアン『マオ』)
不死身のカムバックを果たしたトウ小平は、次期後継の胡耀邦を失脚させ、つぎに趙紫陽に天安門事件の責任を取らせて失脚させ、さらに楊尚昆兄弟を引退に追い込み、傀儡江沢民を後継に指名したが、江沢民に絶対にキングメーカーのポストを与えず『次の次』は胡錦濤だと言い残して逝った。
胡錦濤自身欲する人事は、次期後継主席に自派の李克強を視野に入れてきたが、李自身の動きが鈍く、また江沢民残党ならびに上海派、太子党の陰湿な抵抗に遭遇、土壇場で曽慶紅が自らの引退と引き替えに、太子党の習近平を送り込んできた。
習はながらく浙江省書記、いきなり上海市書記に抜擢され、さらに三段跳びで中央政治局常務委員に加わる。 
しかし三月の全人代で、この習金平に対して、胡錦濤は「軍事委員会副主任」のポストを与えなかった。
軍を動かせないポストのままとして、しかも、習を北京五輪責任者とした。もし五輪が失敗したら、習に責任を取らせ、上海派と太子党をコーナーへ追い込む計算がある。
▼習近平はしたたか
かれは冒頭にのべたように『私は共産主義を信奉していますよ』とでも宣言かするように、まず北朝鮮を訪問した。儀礼的儀式的とはいえ、中国外交において、この意味は大きい。江沢民も胡錦濤も、総書記就任後の早い時期に平壌を訪問しているからだ。
北京五輪ではブッシュ大統領、プーチン、サルコジ、福田などなど胡錦濤が表舞台で世界の指導者と会見するのは国家主席であれば当然であるが、習錦平は意図的にか目立たず、しかし周到かつ着実に外交の檜舞台にあらわれている。
まず習近平は、ブッシュ大統領と個別会談をもち、ついで金永南、北朝鮮代表とも面談した。
カタール大統領、ケニア大統領、イラン大統領らとも個別に面談し、歓迎会ではメインのテーブルを避けてモンゴル、スイスの元首らと同席だった。
また「太子党」ということで、ベルギー、デンマーク、オランダ、スペイン、タイ、トンガの王室と面会し「王室外交」を繰り広げた。
だが、これらの習の外交は写真を人民日報に掲載させず、みごとに目立たない役割を演じきったのである。
不気味な遊泳をつづける、この習近平は人心の収攬に長けていると言われる。
        
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