今年80歳の誕生日を迎えたエドゥアルド・シェワルナゼ(ソ連元外相、グルジア前大統領)が”新冷戦時代”を迎えると警告した。「チェコやポーランドのミサイル防衛(MD)を米国は考えなおすべきだ。米国がMDにこだわる限りロシアは強硬措置を取り続ける」という。冷戦崩壊後、初めてロシア軍の周辺国出動を招いたグルジア紛争の原因もMDに起因するというわけだ。
シェワルナゼはゴルバチョフの新思考外交の推進役としてソ連外相に就任、さらにゴルバチョフのペレストロイカ(改革)でも片腕となり、冷戦終結の旗手となった。しかし今回の発言をみる限り、元ソ連外相のワクから出ない。
ソ連崩壊後はグルジア共和国の大統領となったが、親欧米路線をとるサアカシビリ大統領にとって代わられている。ロシアの周辺国家がロシア離れをみせるのは、米国のCIAによる策謀という見方はもはや流行らない。大国主義から脱することができないロシア自身に問題がある。
米国もそうだが、軍事大国であるロシアは、力づくで問題解決に当たる性癖が抜けない。佐藤内閣の椎名外相時代に外務省記者クラブにいたが、来日したソ連のグロムイコ外相ほど面白味に欠けた外交官はいなかった。何にでも「ニエット」と拒否権を使うのだから、外交術もクソもあったものではない。
ゴルバチョフが登場してグロムイコは最高会議幹部会議長にタナ上げされ、後任の外相にはグルジア党第一書記に過ぎなかった無名のシェワルナゼを抜擢して内外を驚かせた。だが、ゴルバチョフ・シェワルナゼ時代も短かった。
皮肉なことだが鉄壁の共産主義国家だったソ連は、ゴルバチョフのペレストロイカとグラスノスチ(情報公開)によっても崩壊を止めることができなかった。国際的にはゴルビーの民主化路線は歓迎されたが、ソ連国内では不人気で1991年の8月クーデターを招く結果となっている。
さらにはゴルバチョフの改革もソ連の仕組みを温存した改良路線と改革派から批判され、保守派は強いソ連の求めて対立、混乱を招いた。
シェワルナゼは新冷戦時代に突入すると警告する一方で、米国には人道支援だけでなくグルジアへの軍事支援を求めている。ロシアが撤兵せずに米国が軍事支援を強化すれば、むしろ新冷戦時代が深まるのではないか。正直にいわせて貰えば、シェワルナゼの発言には理解しがたいところがある。ペレストロイカが過去の言葉となったと同じようにシェワルナゼも過去の人になりつつある。
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2162 ”新冷戦時代”のシェワルナゼ警告 古沢襄

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