陸上自衛隊による国内では最大規模の実弾射撃訓練である第50回(平成20年度)富士総合火力演習(fire power 2008 in Fuji:以下、演習という)が陸自富士教導団の隊員約2000人により、2008/8/23~24御殿場の東富士演習場(畑岡地区)で行われ8/23の第1日(教育演習)を参観した。
「演習」とは「実戦を想定しての訓練」である。演習は10:15~12:00。雨天模様の中、現代戦に必要な火力等の性能・効果と火力戦闘の様相が実戦さながらに展開され、左右2台の大型スクリーンでも実況された。
なお、8/23の観覧者は約3万人と聞いたが、8/24の一般公開演習の観覧チケットは平均倍率26.3倍にもなったという(「防衛ホーム」による)。
演習は1961(昭和36)年、陸上自衛隊富士学校の学生教育の一環として開始され、1966(昭和41)年から国民に一般公開され現在に至る。
一般公開の目的は国民の自衛隊の活動への理解と支援を得ることが第一であるが、隊員募集・予算獲得のための行政・議員らへのPR、隊内士気の鼓舞、さらに、自衛隊家族の慰安なども企図されていると思われる。
演習は前段と後段に分かれていた。詳細プログラムは防衛ホーム新聞社のホームページ(http:/www.boueinews.com)にも記載がない。少し長くなるが、次に記す。
【前段演習】10:15~11:10陸上自衛隊の主要装備品の紹介(実弾射撃)
遠距離火力:航空火力(F-2)、特科火力(99式自走155mm溜(りゅう)弾砲、203mm自走榴弾砲、155mm榴弾FH70)
中距離火力:迫撃砲(81mm迫撃砲L16、120mm迫撃砲RT)、誘導弾・ミサイル(79式対舟艇対戦車誘導弾 89式装甲戦闘車)、87式対戦車誘導弾、96式多目的誘導弾システム)
近距離火力:対人障害(指向性散弾)、普通科火力(軽装甲機動車、89式装甲戦闘車、01式軽対戦車誘導弾、96式装輪装甲車、89式5.56mm小銃、対人狙撃銃、84mm無反動砲、110mm個人携帯対戦車弾、多用途ヘリコプターUH-1)、ヘリ火力(対戦車ヘリコプターAH-1S)
戦車火力:90式戦車(全長約9.8m、重量約50t、最高速度70km/hr) 74式戦車 空挺降下:自由降下、集団降下 以上、前段演習
富士学校の若い学生は洗い晒しの迷彩服の正装で隊列を組み入場しスタンドで見学していた。彼らは何を学び、何を思うか。
演習の臨場感とは「絵」ではなく「音と衝撃」である。発射砲は観覧席から約200m以上も離れていたが発射音と衝撃波はとにかく凄い。耳と腹にズシッとくる。泣き出す子供もおり、ティッシュペーパーを丸め耳栓にしている人もいた。
専門用語による演習の指令・応答には緊張感があった。「発射」、「弾着(目標に当ること)」、「我(われ)の前進を妨害する敵を・・・不意急襲的に射撃」「警戒線を強行突破」、
「ロープで現場から離脱(輸送大型ヘリCH-47Jから降りたロープに数人が鈴なりにぶら下がり10~30m上空を飛び去る)」、「トレーラー分解(あっという間に解体し、ヘリへ収納)」など。
【後段演習】1125~1200攻撃の場を通じた諸職種共同の戦闘様相の展示。(実戦さながらの組織的な攻撃演習)
航空偵察:観測ヘリコプター(OH-1) ヘリボン行動:多用途ヘリコプター(UH-1・UH-60J)、オートバイ(偵察用)、対戦車ヘリコプター(AH-1S)、輸送ヘリコプター(CH-47J)、軽装甲機動車、高機動車 偵察活動:87式偵察警戒車、オートバイ(偵察用)
攻撃準備射撃・障害処理・前進支援射撃・普戦チームの攻撃・突撃支援射撃・突撃・対逆襲戦闘・戦果拡張、(・・・と、第一線部隊の攻撃が全面展開される。この攻撃に使用された武器等は次のとおりである)
203mm自走榴弾砲、155mm榴弾FH70、81mm迫撃砲L16、120mm迫撃砲RT、90式戦車、74式戦車、79式対舟艇対戦車誘導弾、89式装甲戦闘車)、87式対戦車誘導弾、92式地雷原処理車 以上、後段演習
後段演習前の「大砲コンサート」では、「アラビアのロレンス(K・J・アルファード作曲)」が演奏された。大砲が太鼓の代りに使われている。
最後の戦果拡張では、戦車16台・ヘリコプター12機以上が陸空に終結し、敵の陣地の制圧を目指した。ヘリ爆撃の轟音、大音響の射撃発射音、戦車の突進、辺りは白い煙幕で覆われた。(台・機数は不確かです)
総合火力の全面展開(攻撃)の迫力は圧巻であった。敵の陣地は制圧された。一瞬の静寂。「ほぉーっ」とまわりからため息のようなものが流れ、しばらくして拍手が起こった。
演習において気になったことなどを、いくつか記す。
まず、相撲やオリンピックでさえ行われているのに、国の防衛を担う陸上自衛隊の総合火力演習の開始・終了に際し、国旗掲揚と国歌演奏(斉唱)を行わないのはなぜか。これでは「演習」にけじめがつかない。
曇天から雨天模様となり、ヘリからの空挺降下(自由・集団)と支援戦闘機による航空攻撃が中止された。見ることができず残念であった。
演習の進行司会者(ナレーター)の声はキンキンと甲高い声質であり耳についた。もっと野太く力強い声質のナレーターを起用したらどうか。
演習での発射は目標にほぼ100%命中していた。かつて自衛隊の演習を視察した米軍幹部は命中の精度、命中率の高さに驚いたという。「厳しい訓練の積み重ね(折木良一陸上幕僚長)」の結果であろう。
しかし、問題は実戦である。実戦さながらの発射でも向こうから弾は飛んでこない。演習の平常心で撃てるだろうか。また、専らカメラという観覧者が多かったが、実戦での射撃を「想像した」人は何人いただろうか。
ところで、イラク派遣者にはご苦労様といいたい。だが、イラク帰還自衛隊員(6,800人:延べ人数!)のうち何と35人が在職中に死亡している。多い。(自殺16+病死7+事故等12人 すべて殉職扱い *1)
(*1)イラク帰還自衛隊員の自殺に関する質問趣意書(照屋寛徳衆議院議員)への答弁書(内閣衆質168第182号 平成19年11月13日)
このような演習や訓練を経ていても、なお、実戦の現場(戦場イラク)は自殺等で35人も死ぬというほどの「ストレス」を隊員に強制するのだ。なお、課題は多い。
ありきたりの結論となるが、自衛隊は国の武器であり防衛の道具である。隊は日々自ら厳しく訓練し研鑚している。最も重要なことは、その道具を使い、率いる政府と政治のリーダーシップと責任をとる覚悟である。
多くの国会議員においても、狭い地域(選挙区)の小さな利益誘導等だけに血眼になっている場合ではないと思うのである。
帰途食べたJR御殿場駅前の店のラーメンはうまかった。店は満員。年に何度かの大きな商売繁昌の日々であろうと思われた。(「頂門の一針」より」)
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