2196 12日間の空白の謎 古沢襄

北朝鮮の声明で一つの謎がある。「今月14日に核施設の無能力化の作業を中断し、関係各国に通知した」という発表は12日後の26日に行われた。核施設の無能力化の作業中断は北京で行われる六カ国協議に対する挑戦でもある。単に米国に対するブラフだけでない。
関係各国に対する通知とは米国、中国、ロシア、韓国、日本の五カ国なのだろうか。だが日本外務省に通知があった形跡がない。一方的に無能力化の作業を中断した模様だ。
ただ四日後の18日に米国の自由アジア放送(RFA)が「北朝鮮は(米国の大統領選挙を前に)ブッシュ政権とは核申告の線で交渉を終わらせ、今後は次の政権と別の解決を模索する方針を定めたようだ」と報じている。米国は北朝鮮が無能力化の作業を中断したことを知っていたと思われる。
自由アジア放送をキャッチしたワシントンの朝鮮日報は22日に同地の北朝鮮専門家の発言として「北朝鮮はすでにブッシュ政権との交渉に見切りをつけて、次ぎに政権と交渉する方針を定めたようだ」と追いかけて報じた。北朝鮮の外務省報道官が公式声明を出す四日前のことである。ワシントンの北朝鮮専門家とは、米国務省の担当者のことであろう。
この空白の12日間は何故だろうか。何故、12日間も遅れて公式声明を出したのだろうか。韓国の朝鮮日報は次ぎの三つの理由をあげている。
①まず、北京五輪を意識していたためだという見方が有力だ。今月14日といえば、北朝鮮にとって最大の援助国である中国でオリンピックが開かれている最中だった。中国は今回のオリンピックに「国運を懸けた」と言われるほど力を入れていた。
こうした中で北朝鮮が核問題で危機をあおるような措置を発表すれば、オリンピックに水を差したという批判が巻き起こるのは必至だった。
②また、25日から二日間、中国の胡錦濤国家主席が韓国を訪問したこととも関連があるとみられる。胡主席は26日午後2時にソウルを発ったが、北朝鮮外務省の報道官が声明を発表したのは、それから2時間近く経った午後3時50分だった。
胡主席がソウルに滞在している間に、北朝鮮が核問題の解決に水を差すような措置を発表すれば、「血で結ばれた」同盟国の中国に対し、外交的に非礼を犯したと言われるのがオチだ。
③一方、この日から始まった米国の民主党大会を意識したのではないかという見方も出ている。今月22日にニューヨークで行われた、核の廃棄の検証に関する米国政府側との実務者協議が進展しなかったため、米国で次期政権を担う可能性がある民主党の党大会に合わせて、北朝鮮が米国に圧力をかけるメッセージを送ったというわけだ。
このことは北朝鮮は米国に揺さぶりをかけてきたが、六カ国協議を主宰する中国に対しては気をつかっていることを示している。ロシア、韓国、日本は、交渉の対象外に置いている。
したたかに計算高い北朝鮮の瀬戸際外交だが、その計算通りにいくか、どうか。かなり危ない橋を渡りだしたと言えそうである。
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