当然ながら、北京五輪中にも、パキスタン大統領辞任、グルジアへのロシア軍侵攻と、世界は動いている。
何故、この当然のことを書くのか。それは、我が国の政治が夏休み中だからである。夏休みは、夏休みでいい。しかし、休み中でも世界は動いているのだから、我が国の内閣総理大臣と内閣の明確な問題意識が見えていなければならない。
それが見えない。極めて遺憾である。
例えば、アメリカ。二十日に国民の支持率において、共和党のマケイン候補が民主党のオバマ候補を始めて上回ったという世論調査結果が発表された。
今までは、「片や女性、片や黒人」、という組み合わせで、ヒラリー・クリントン氏との派手な指名争いをしてマスコミの注目度が高かった分、オバマ氏がマケイン氏を支持率で上回っていた。それが逆転したのである。
その逆転の理由の一つに挙げられているのがグルジア情勢への対応である。マケイン氏が軍事・安全保障問題に強いこと、反対にオバマ氏が、ロシアのグルジア侵攻の時にも夏期休暇を取り続けていたこと。この両者の差が、逆転の理由に挙げられている。
このアメリカ国民の反応は、極めて健全ではないか。願わくば、我が国の政治に関する世論調査結果も、このような観点から動いて欲しい。
私は、北朝鮮情勢や中国情勢に厳しい目をもっている共和党のマケイン氏が、アメリカ大統領に就任することが日本と日本国民にとってもよいことだと判断している。
彼がこのまま支持を伸ばし大統領に当選することを願う。
さて気になるのが、インド洋ソマリア沖での海賊による日本タンカー乗っ取りである(八月二十二日、産経新聞朝刊)。
どこの新聞も「ソフトボールで日本が金メダルを取った」であろうが、国家の運命に関わる重要度からみれば、「日本タンカー乗っ取らる」がトップになるべきである。
いうまでもなく、ペルシャ湾岸から最大の量の石油を運び出しているのは我が国である。我が国は、この石油がなければ経済が崩壊する。文字通り、ペルシャ湾海域とインド洋は我が国の「生命線」である。しかも、この海域における日本タンカーや貨物船への攻撃や乗っ取りは、七月にも四月にも昨年十月にも発生している(同日産経「主張」が指摘)。
しかし、内閣には、このタンカー乗っ取りを契機に「対処方決断に至る」というような動きが見えないのである。
聞こえてくるのは、与党内からの「新テロ法」延長の再議決を前提にした会期には反対という内輪の話だけである。では、この再議決の話が何故でるのかといえば、民主党が今からインド洋関与に「反対」だからであろう。
ということは、与党内の再議決回避の話は民主党の「反対」に迎合して、日本がインド洋は他人の海、関係ございませんと手を引くという結果を目指していることになる。
人体でいえば、頸動脈付近に針が突き刺さってきているのに、その付近は関係ございませんと昼寝をしているような状態である。まさに、与野党とも、ただ選挙のことだけを考える平和ぼけの亡国の政治構造ではないか。
「インド洋における我が国の活動を憲法違反だというような党首を放任しておくことはできない、腹に据えかねる」と党首選に打って出る者がいない民主党の状況も、再議決を前提にした会期には反対という与党連立の状況も、ともに責任ある政党の姿ではない。
現在、アルカイダをはじめとするテロリストそして海賊の攻撃から、ペルシャ湾岸の石油関連施設とタンカーや貨物船を恒常的に守っているのは次の多国籍海軍であり、彼らは「海洋安全保障作戦」という任務を遂行している。
アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリア、パキスタン、カナダ、ニュージーランド
つまり、これらの諸国の海軍軍人(彼らは青年である)により日本の生命線は守られている。気温五、六十度を超える甲板上で彼らは任務に就いている。そのおかげで日本の政治家はクーラーのある部屋で夏期休暇をとっている。クーラーを止めて彼らの労苦を思い感謝する日を作ってもいいほどだ。
しかし、我が国の政治構造は、この「海洋安全保障作戦」は、我が国と関係がないとしてすまそうとしている。
それどころか、我が国自身の生命線を守るこの作戦に関与することを「憲法違反」とする独断が幅を利かせている。まさに「亡国の政治構造」と言う所以である。
ところで、パキスタンでも(でも、と言えば失礼だが)、この海洋安全保障作戦に参加しているのである。
しかし、ムシャラク大統領が退陣して彼の路線に反対する勢力がパキスタンの政権を握ることになった。このことが海洋安全保障作戦に如何なる影響を与えるのか。これは我が国への石油輸送に直接影響を与える事態である。
やはり、我が国は、インド洋における海洋安全保障作戦に他人事ではなく我が国自身のこととして参加すべきである。そして、作戦参加国の政情不安に左右されないインド洋の安全を自ら確保すべきである。
我が国は、アメリカ以外の作戦参加国が保有していない能力をもっている。これこそ、我が国が世界の安定のためにもっとも大きな貢献ができる領域である。
それは、海上自衛隊の対潜哨戒機P3Cによるインド洋の哨戒である。この哨戒活動が作戦参加国の艦船を守りインド洋の安全を守る。即ち、我が国の生命線・シーレーンを守る。
我が国政治は、この決断をすべきである。国民は既に理解している。理解していないのは、永田町だけだ。
さて、前回と前々回のこの通信で、グルジアへのロシア軍侵攻と居座りを六十三年前の千島・樺太への火事場泥棒的ソビエト軍の侵攻に関連づけた。
ところが、今朝(二十三日)の「産経抄」は、さらに加えて、「日本にとってグルジアはプラハ、そして北方領土へとつながる問題だということを忘れてもらっては困る」と結ばれていた。
はたと手を打った。産経抄に指摘されたとおり、グルジアで今「プラハの春」圧殺の事態が起こっていることに思いをいたしたのである。
千島・樺太へのソビエト軍侵攻時には、私は生まれていなかった。しかし、プラハへの侵攻時は学生だった。実感としてソビエト軍が侵攻した事態が甦ってきた。
あの時、バーツラフ広場に行きたいと思い旅の準備をした。スボボダ大統領、ドプチェク第一書記、さらに体操の美しいビェラ・チャスラフスカ、陸上の人間機関車ザトペック、彼らはどうしているのかと毎日ニュースに注目した。大統領のスボボダと言う名は「自由」という意味であった。
あの「プラハの春」圧殺を再現したロシア軍のグルジア侵攻と居座りは許せない。
このグルジア情勢に対する態度の差を、二人の大統領候補の支持率逆転に至る要因とするアメリカ世論は、やはり信頼でき健全である。永田町の与野党幹部よりよっぽど冴えている。
最後に、産経抄には「プラハがソ連によって蹂躙されても、日本の若者が抗議の声を上げることは少なかった」と書かれている。確かに少なかった。しかし、私が党員であった民社党の学生部は、少数ながら、ソビエト大使館に抗議のデモを仕掛けた。
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