2213 特派員電が偏るわけ 渡部亮次郎

<日本の大手マスコミが、いつもアメリカ大統領選挙で予想を大きく外す傾向があります。第1に特派員の多くがNYタイムズなど北東部のリベラルな新聞の後追いが多いため、気づかない裡に民主党有利の記事を書いていることです。
第2に日本の特派員はワシントンやNYにいても、記者クラブというムラに住んでいて、独自取材が不得手。積極性がないのが致命傷ですね。もちろん産経の古森さんとか、例外もたくさんいますが。
第3は共和党との人脈が極端に薄いためです。まして特派員の多くの日本人が本質的に民主党リベラル支持派ですから、その分析が偏向しているのです>。(「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 平成20(2008)年9月1日(月曜日)通巻第2303号)。
私は国内政治だけの記者をたった20年しかしなかった中途半端記者だったが、NHKというマスコミに居た事は間違いないので他人事(ひとごと)ではなく受け留めた。
記者の途中で1977年11月に、福田赳夫内閣の改造で官房長官から外務大臣になった園田直(そのだ すなお)氏に求められて秘書官(政務担当)に就任した。
その後も園田氏は外務大臣を次の大平正芳内閣、鈴木善幸内閣と3代に亘って勤めたので、私もそれなりに外務省に知己ができた。それとなく彼らの話を聞いていると「外国語に優れた外交官は外務事務次官にはなれない」というジンクスがあるということだ。
その後の外務省人事では、これは外れもあったかもしれないが、その時までの説明によると、人間の頭脳は左脳と右脳があり、外国語を記憶するための脳を発達させると、総合判断力を磨く能力が落ちる。
外国語を磨くと通訳には優れるが、外交官としての判断力とか洞察力、推理力、人事管理能力とかは二の次になってしまうから、省内ナムバー2として、官僚の頂点には立てない、と言う事だった。
NHKや民報、新聞各社も同様だと思うが、記者の採用試験の際、人事部は予め、将来の海外特派員候補として、外国語に優れた人材を採用する。
ただし将来の海外特派員を保証はしない。知らん振りをしてまず地方の支局に一般取材記者として赴任させ、一般的な取材能力を磨かせる。数年後に一旦、東京本社に引き揚げた後、政治部なり経済部なり社会部などで仕上げをした後に、特派員として海外に派遣する。
ワシントンは政治と犯罪、NYは国連と株と犯罪が分からなければ話にならないから、予め訓練は東京で受けてきたはずだが、すんなりとは行かない。発表物はこなせるけれども、役人や企業幹部はなかなか単独では取材の応じてはくれない。
日本にいた時のように「朝駆け」や「夜回り」の応じてくれる役人や会社幹部は皆無。よほど親しくなれば昼食を共にしながら取材の応じてくれるが、そこまでなった時すでにほぼ3年の任期は終了。
仕方ないから現地新聞早版の「翻訳」に集中しがちになるが、対象とする新聞は日本でもよく名が通っているNYタイムズとかワシントンポストに偏ってしまう。
それら各紙の社是が民主党支持なのだから日本への記事も民主党寄りになり、自然、共和党への人脈を築けなくなってしまうという構図なのだ。宮崎さんご指摘のように、記者クラブに籠もっているわけではない。
ワシントンに定年過ぎてもいる産経の古森義久氏とか10年以上もNYやワシントンにいたNHKの某氏らは特殊な理由があって長期滞在できているのであって一般的な例では無い。
各社の外報部、外信部、国際部といった海外取材部にはアメリカ、モスクワ、北京、上海、パリ、ロンドン、中東など特派員希望者が日ごろ、横文字を縦にするだけの退屈を偲びながら虎視眈々と現任者の帰国を待っている。だとあっては現任者としては悠々と深い取材を続けてはいられないのだ。
そういう事情に理解の無い評論家から批判されるたびに、各社の関係者は「何を言ってやがんだい」とニガ虫を潰していることだろう。関係者と宮崎さんの双方を知る私は苦笑するしかない。
産経は中国総局長とソウル支局長をいずれも共同通信社からスカウトして長いこと勤めさせているが、後任希望者の鬱憤はどうやって捌いているのだろうか。
序に触れるが、中国駐在の特派員たちが、自由な取材活動も、活発な中国共産党の批判もしないのは、田中角栄首相による国交回復以前にマスコミ各社が北京への特派員派遣を抜け駆けしようとしていたため中共に足元を見られ、全く不利な記者交換協定を結んでしまい、以後絶対に改定の応じてもらえないからである。マスコミ各社の自業自得、自縄自縛なのである。
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