恩田木工は財政再建へ向け、家老や諸役人にこう申し渡した。
「各々方ご存知の通り、江戸表において拙者、財政再建の勘略奉行を仰せ付けられしも、元来不調法者ゆえに、なかなか私一人にてはあい勤まりませぬので、万事にご協力をお願い申し上げます。
いかにして歳出を削減するか。殿の生活費などは、十万石相応にしておくためには、なかなか削減はできないと思います。ですからそれ以外で削減を図ることにいたします」
●真田家家中へのアメとムチ
「各々方をはじめ下々まで、今まで『歩引』(俸禄カット)がありましたが、手前が役儀にある間は『歩引』はいたしません。本高(満額)支給いたしますので、そのように御理解ください。
その代わりにご奉公に少しでも手抜きがあれば、拙者が赦しませぬ。きっちりと処罰します。このことを末端まで周知徹底してください。
以上のようにご奉公を大切にあい勤めた上で、余裕があるのなら、どのように過ごそうが問題ありません。楽しみがなければ平生の仕事に励みができませんから、分相応にお楽しみください。
その他の歳出削減、歳入拡大については急にはできませんから、殿のご帰城までに万事工夫をしておきます」
その後ほどなく真田公がご帰城し、木工は待ち受けてご挨拶にうかがい「近日より政策を実行してまいります」と申し上げた。殿は「財政再建に一日も早く着手するように」と命じた。
木工は早速次のように領民との対話集会を指示した。
一、何月何日何時、庄屋(村長)、長百姓(有力大高百姓)、小前(平百姓以下)の者のうち、よくものの分かった者を召しだし、まかりでる旨、十万石の領分へ残らず周知すること。
また、御用金提供者(債権者)、未進の者(年貢滞納の債務者)もまかりでること。
一、町人は、庄屋(町長)、組頭(役員)、平町人も右と同様に周知すること。
一、家老、諸役人には、政策実行について指示をするので大儀ながら列座するよう伝えること。(つづく)
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2241 「日暮硯」松代藩の財政再建(4) 翻訳:平井修一

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