2250 「日暮硯」松代藩の財政再建(5) 翻訳:平井修一

対話集会の当日、家老、諸役人は大広間に列座している。恩田木工は庭に控える百姓代表団にこう語りかけた。
「手前、江戸表へ召し出され、殿様、ご親類中様から勘略奉行を仰せ付けられた。ご辞退したがお許しを得られなかったのでお受けしたが、自分だけではこの仕事はあい勤まらぬゆえに、今日皆のものどもととくと相談したく呼び寄せた次第である。まず手前が申すことを聞いてから、皆々の意見を申すように願いたい。
まず、藩の財政難のために、今日までことの他難儀しているが、領内の者どもも難儀していることは気の毒と思っている。まず、今後、私は一切嘘を言わぬつもりで、言ったことは変更しないから、これは堅く心得ていてほしい。
また、今後は皆と顔を合わせて万事相談しなければ財政再建はできない。私の働きだけでは勤まらないので、何事も心安く手前と相談してくれよ。これが第一、私の皆への頼みなり」
●タウンミーティング
「さらに、皆が納得してくれなければ手前の役儀も勤まらないから、切腹するより他ない。よって、手前に首尾よく役儀を勤めさせてくれるも、切腹させるも、皆の了見次第だから、どうしたらよいか、皆の所存(考え)を聞きたい。しかし、このような庭にては返答もできないだろうから、まずは今日は帰り、百姓代表と相談して、追って返答してくれよ。
今日皆と相談することの第一は、嘘は言わないし、言ったことは必ず守るから、そのように心得てほしいということ。それとも嘘を言わなければ皆にとって不都合なのかどうか。どうであろう」
百姓「これまではお役人様が嘘を言い、騙したために難儀をしてきましたが、一旦言ったことは変えないというのは大変ありがたく、皆この上なくうれしく思うところです」
「しからばこの件は皆が納得し、手前も満足である。次に、祝い事、哀しみ事によらず、私はすべての贈答品を受け取らない。どんなに小さなものでも持参は無用である。それとも賄賂を受け取らないと皆にとっては不都合かどうか」
百姓は皆、賄賂廃止に賛同した。
「さて次だが、これまでは千人の足軽のうち、百人は警備に残し、残りの九百人は毎月村々へ年貢の督促に遣わしている。今後は1人も出さぬつもりで、そのように心得てくれ。人を出さぬと不都合があるか」
百姓「その件はまことにありがたきことです。足軽衆は村へ来られると、年貢催促ばかりでなく、5日も7日も逗留し、乱暴を働いたりして困っていました。1人も出さぬとのことなれば本当にありがたいことです」
「次に、先のことは分からないが、この役儀は5年間は勤めるつもりだが、その間は領内の道路や河川整備のための地方普請(じかたふしん)など、労働提供の「役儀」は、現物納や貨幣納の「諸役」ともに免除するつもりだから、そのように了解してくれ。それともこれは皆のためにならぬか」
百姓は「ありがたき幸せ」と了承した。(つづく)
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