2254 「日暮硯」松代藩の財政再建(6) 翻訳:平井修一

百姓との対話集会は次第に佳境に入っていく。
恩田木工「さて、次のことはよくよく相談しなければならぬ。皆、よく聞いてくれよ。年貢の1年分前払いの『先納』、2年分前払いの『先々納』をしているものは来ているか。先納・先々納をしている理由は何か。なんぞ利点があるのか」
百姓「お役人様より仰せ付けられたために、迷惑千万ながら先納・先々納をしております」
●年貢の先納、藩公債を廃止する
木工「たとえ役人が申し付けても、当年の年貢より他は出さなくてよいものを。先納でさえ過分なのに先々納までするとはタワケだ。
また、百姓が出すからといって、役人が先納・先々納まで取り上げるということがあるものか。これは大タワケであり、無慈悲である。
と、まあ、これは理屈である。財政難のために是非なく先納を取らなければ公務ができないから先々納まで申し付けたものだ。
役人も無慈悲ではなく、仕方なくしたものだ。百姓も藩の内々の経済状態をよく知っているから、迷惑ながらも役人の私益でないことを理解して先納・先々納したものだ。
その方たちは忠であり、お殿様は忠なるお百姓を持ち果報ではあるが、これでは財政が立ち直らない。今後は当年貢のほか、先納・先々納は申し付けることはないから、そう心得よ」
次に御用金という藩公債について話題が移る。本来は一定期限を設けて元利返済するものだが、反故にされる傾向にあった。
木工「御用金を出した者は来ているか。出した理由は何か。利息を貰ったのか。どんな利点があるのか」
百姓「折々御用金を出してきましたが、利息を下されたことはもちろん、元金さえも返済されたことはなく、難儀しております。お役人様が厳しくお取立てになるので、仕方なく出しております」
木工「それならば役人が申し付けても、金がないと言って断るのが筋であろう。たとえ公儀(幕府)が我が藩へ御用金を仰せ付けても、金がないと言って断っても殺されるわけではない。それを言われるままに出すというのは、持っているからこそとて、返済もされない金を出させるというのはあまりにも非道である。
と、こう言うのも理屈である。まことはお上に金がないために、江戸表の役儀も勤められないゆえに,そのほうどもが持ち合わせたるを幸いに無心して、江戸表の御用も賄ったのである。返済したくとも、元来金がないのだから仕方がないと放置してきたものだ。
役人の非道というものではなく、その方どもが江戸御用の訳を知り、迷惑ながらも差し出したものである。それがために御用も欠けることなくあい済み、奇特千万である。殿様もご満足である。
されば以後は御用金などは一切申し付けることはないから、そう心得よ」
一同「ありがたき幸せ」と申し上げた。(つづく)
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