2280 金総書記の本当の病名は? 石岡荘十

杜父魚ブログで、北朝鮮の金総書記の病状についてリポートしたが、病名のその後の報道でまたまた疑問を抱いた。
産経新聞【ソウル=水沼啓子】によると、<(韓国の)外交情報筋は「金総書記が脳卒中の後遺症である痙攣を起こしているという情報は、建国記念の数日前に平壌を訪問した際、金総書記に会った中国側の高位クラスの要人が中国当局に報告したことだ」と語った>という。
中国当局はこの報告から、「金総書記に言語障害などの特別な問題はないという事実を把握し、ときどき起きる痙攣のため建国記念行事に参加しないことは予想していた」という。ただ、中国情報当局は痙攣などの症状により、「長期的には正常な統治行為の持続に影響を及ぼすだろう」とみている。
記事の中に出てくる医療関係の言葉の意味を整理しておく。
まず「脳卒中」は、専門的には「脳血管疾患」といい、その中で多いのが脳梗塞と脳出血だ。脳梗塞は脳に栄養を送るのに血液が詰まって流れなくなること、脳出血は脳の血管が破れて出血し、脳血管の一部が壊死する障害を指す。
くも膜下出血、脳いっ血などは細い血管が破れた部位によってつけられた病名だ。つまり、脳の血管が詰まるか破れる、これを一括りにして脳卒中といっている。昔は「あたる」といった。
このように脳の組織が傷つくと、意識がなくなったり、舌がもつれる、手足がしびれる、半身不随(片まひ)になるなどの症状が出るが、<痙攣>という後遺症を呈することは稀である。
脳卒中だとすると、よほど軽症の場合はともかく、<言語障害などの特別な問題はない>という記事は理解しにくい。この場合の「痙攣」は医学的には「不随意に筋肉が激しく収縮する」ことをいう。
つまり自分の意志に関係なく全身や体の一部が震えることをいうが、脳の疾患のなかで「痙攣」という合併症を伴うのは脳腫瘍の場合である。
だから、脳卒中だとすると「痙攣」には疑問符がつくし、「痙攣」を起こしているという情報の信憑性が高いとすると、脳卒中ではなく、脳腫瘍ではないのかという疑いが強くなる。いずれにしても、言語に障害がないとは考えにくい。
「言語障害」は、障害を受けた脳の場所によって症状が異なる。側頭葉(聴覚、嗅覚、味覚)に障害が現れると、言葉を聞いて理解する力が衰え、相手との会話が成り立たなくなる。
前頭葉(思考、判断、計算)に障害を受けると、頭では言葉を理解できているのに、話そうとすると言葉にならなくなる。
その他にも、言葉を理解することも話すことも出来ない「全失語」、言葉を理解できても簡単な単語を忘れてしまう「健忘性失語」などがある。
こんなことになっているとすれば、金総書記の“統治能力”は失墜する。<脳卒中だが言語障害はない>という情報は、二律背反の関係にある症状を言っている。木に竹を接ぐ言い方だ。
言語にだけは問題ない、健在だと強調することで、統治能力に問題がないといいたかったのではないか、と勘ぐることも出来る。
さて治療法である。
適切なタイミングで最先端の治療が行なわれれば、一命を取り留め、ある程度の社会復帰は可能だが、“金王朝”の見通しを占うためにも、まず病名の確定し、外国から呼んだとされる医師の専門分野は何か、の取材が重要である
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