2287 人民軍が9・9節不参加の別の理由 古沢襄

韓国の朝鮮日報は北朝鮮の建国60周年記念行事に正規軍が参加しなかったのは、別の理由があると推論している。北朝鮮における食糧危機は、正規軍にまで及んでいる。「人民軍の部隊に大量の餓死者が出るかもしれない」という噂も出ているという。
正規軍の内部で不満が高まれば、1996年の将官級と佐官級軍人数十人が関与した大規模な反政府グループ事件(第六軍団事件)の再発の懸念もある。さらには軍内部の不満を押さえるために政権が冒険的な挙にでることだってあり得る。
金正日総書記の病状とともに北朝鮮人民軍の動きも注意しておく必要がある。
<北朝鮮当局は9日、建国60周年記念行事を開催したが、主人公であるはずの金正日(キム・ジョンイル)総書記が参加することはなかった。正規軍が参加する大規模な軍事パレードは午前に行われることが通例だったが、今年は午後の遅い時間に、正規軍ではなく労農赤衛隊と赤い青年近衛隊、そして平壌市民のパレードだけが行われ、金総書記の健康悪化説が現実のものとなった。
今回の行事に北朝鮮の正規軍が登場しなかったのは、金総書記の健康悪化のためか。有力な北朝鮮内部の消息通によると、正規軍の平壌集結が中止されたこと、午前に行うべき行事を午後の遅い時間に移したのには、ほかの理由もあるという。
北朝鮮は今年4月から、人民武力部傘下の軍官学校生徒と各軍団から差し出された数万人の兵士を動員し、大規模な軍事パレードを準備してきたとのことだ。最近中国を訪れた北朝鮮のある政府関係者は、「当時の北朝鮮当局は、田植えの季節であったにも関わらず、軍人を一人たりとも農村に送らず訓練させ、各地域で民間の支援を督励したこともあった」と語った。
これまで閲兵式に参加した軍人たちは、米飯に肉のスープはもちろん、さまざまな土産物を下賜され、最高の待遇を受けてきた。閲兵式への参加が、軍人としては最高の栄誉だと考えられていたほどだ。しかし今回イベントに動員された軍人たちに対しては、トウモロコシすらきちんと支給できないほどに状況が劣悪で、軍人たちの不満は爆発寸前だった。そのため軍の情報機関である保衛司令部の内部決定により、正規軍のパレードが中止させられた可能性も排除できない、というわけだ。
現在では軍内部に、「今年下半期に人民軍の食糧倉庫である“2号倉庫”の備蓄が底を尽き、人民軍の部隊に大量の餓死者が出るかもしれない」という恐ろしい噂が広まり、軍内部の動揺も大きくなっている。
最近国境を越えた元軍人の脱北者は、「軍用食糧のコメは主要な穀倉地帯の黄海道でまかなわれるが、そこの農地が昨年の水害で台無しになった上、国際穀物価格の上昇で中国当局が今春に北朝鮮向け食糧輸出を抑えたことが決定な打撃となった」と語った。
この脱北者は、米国による初の北朝鮮向け食糧支援として送られた小麦が、軍の中でも最も状態が劣悪な海軍司令部傘下の部隊に集中して配給された、と語った。食糧分配に対する監視の目をごまかすため、海軍所属の軍人は皆民間人の服装をして食糧を受け取り、そのほとんどは後で海軍に送られたという。軍隊の祭りと言うべき閲兵式が飢えのせいで中止となり、不満が危険なレベルに達して今回のイベントが迷走したという可能性が提起されるのは、まさにこうした状況ゆえだ。
1995年に金総書記が「先軍政治」を実施してから、金総書記のあらゆる権力は軍部に集中した。しかし急激な経済悪化と食糧難で、人民軍を「栄失軍(栄養失調の軍隊)」や「強栄失(強い栄養失調の軍隊)」と呼ぶ事態にまで至っている。
こうした雰囲気の中で、軍隊の内部には「反金正日」の兆しも見られ始めた。93年に旧ソ連軍事アカデミー出身の将官11人をクーデターの疑いで摘発・処刑したのに続き、96年には咸鏡南道に駐屯する第6軍団で事件が起こり、多くの幹部将校が命を落とした。
北朝鮮内で高い地位にあったある脱北者によると、「第6軍団事件は、軍団政治委員の傘下にいた将官級の軍人らと大佐級の軍人数十人が関与した大規模な反政府グループ事件で、外部の情報組織と連携して活動してきたが、摘発された」と語った。
この第6軍団事件以後、軍の将校に対する監視活動が強化されたことが分かっている。師団長級以上の将官ついては、内部情報機関から金正日総書記に対し10分単位で居所が報告されるシステムを備えたという。
金正日総書記は軍隊と銃隊を最も愛したが、人民軍の忠誠度は地に落ちている。
元軍人のある脱北者は、「現在服務中の人民軍兵士の大部分は、1990年代後半の食糧難で親兄弟を葬った痛みを抱えている」と語った。今でも大部分の兵士から聞こえる声は「親兄弟がひもじい思いをしている」というものばかりで、若い軍人の体制不満は想像以上に深刻な水準にある。
この脱北者は、「軍人が体制に対する希望を持たず、大多数は外部の情報に飢えており、軍隊内で韓国の映画を見たりラジオを聴いたりすることも一度や二度ではない」と語った。
経済難で発生する軍隊内での暴力や慢性的な飢えは、軍隊組織を瓦解させかねないレベルに至っている。盗みは人民軍の兵士たちにとって、生存に欠かせない条件のようになったという。
最近韓国入りしたある脱北者は、「最近の人民軍で最も深刻なのは脱走だ」と語った。以前ならば脱走は銃殺刑だが、脱走兵があまりに多いため、軍官(将校)が逃亡兵をなだめて連れ戻す、という事態にまで至っているという。数カ月間準備した閲兵式が突然中止されたことで、そうでなくとも不満だらけだった軍隊全体の士気の状態がさらに悪化した可能性が高まっている。(朝鮮日報)>
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