2291 「日暮硯」松代藩の財政再建(9) 翻訳:平井修一

百姓たちは帰村するとすべての百姓を集めて、「このたび恩田木工様が仰せになったのはかくかくしかじか」と申し聞かせると、「あの足軽どもが村へ来て乱暴を働くのには困り果てていたが、今後1人も出さないというのは、これだけでもありがたいのに、夫役までも免除とのことならば、今後は年貢を倍増しても構わないほどだ。早速了承した旨、お殿様、木工様に申し上げて安心させてください」と一同が喜んだ。
名主、組頭も「我らの面目も立つ」と大いに喜び、次の議題である護符(密書)に話題は移る。
今までの意趣返しはこの時こそ、ありがたいことだ、まことに闇夜に月、胸の曇りも晴れて、これから先は安楽になるに違いない、と喜ばぬものはない。
●領民はみな安堵する
村々が護符を認(したた)め、名主、長百姓などが役所を訪ね、「木工殿の提案はありがたいことと皆が喜び、年貢は2年分でも大丈夫です、いつでもお申し付けください」と申し上げた。
木工「手前が申した趣旨をすべての百姓が納得してくれ、そのお陰でお役目が勤まり、切腹する目にもあわずに、皆に感謝している。その上に、必要なら2年分の年貢を納めるとのこと、殿様がお聞きしたらきっとお喜びになるだろう。
しかし、当年貢さえ納めてくれれば十分だ。過分なほどの志である。残らず殿様にお伝えする。
これからも家業に勤めてくれ。言うまでもないが、家業をおろそかにするのは天下の大罪だ。一所懸命に頑張って、余力があるのなら分相応に楽しんでも構わない。
楽しみであるのなら浄瑠璃、三味線、博打なりとも好きに楽しむがよい。博打は天下の御法度だが、商売でやるのなら罰するが、遊びなら構わないからそのように心得てくれ。
大体楽しみがなければ仕事の励みにならない。大いに楽しみ、大いに精を出してくれよ。また、仏神を信仰する心がないと災いも多いものだ。この世と来世のために神仏をよく信仰してくれ。
さて、先だって申しつけた護符を持参したか」
百姓が差し出すと、「これは手前が見るものでなく、殿様にご覧に入れるものである。皆々村に帰って頑張ってくれよ」と一同を帰らせた。
木工殿は早速殿様のもとに伺って報告した。
「お喜びください。財政は立ち直ります。借用金の返済は棚上げとなり、事実上の無借金となり、当月より財務に支障はありません。領民は1人もお上を恨むものなく、かえって感謝し、2年分でも納めますと申すほどです。当月より滞りなく年貢が上納されるはずです。これはすべて殿のご仁政の賜物です」
真田公はこれを聞くとことの他に満足のご様子で、「いやいや我が徳ではない、その方の働きであり、大きな奉公であり、金や宝石にも匹敵する忠勤である」とお褒めになり、木工殿は「ありがたき御意」と感謝した。
「さて、これは百姓どもが認めたものでございます。ご覧ください」と護符を殿様にお渡しして退出した。
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