記者の大先輩古澤 襄(のぼる)さんが自らのブログで引用(9月14日)した韓国紙「朝鮮日報」(9月10日)によると9日の北朝鮮建国60周年記念行事に主人公であるはずの金正日(キム・ジョンイル)総書記が参加しなかった理由はまだ明かされていない。
<正規軍が参加する大規模な軍事パレードは午前に行われることが通例だったが、今年は午後の遅い時間に、正規軍ではなく労農赤衛隊と赤い青年近衛隊、平壌市民のパレードだけが行われた。>、
これまで閲兵式に参加した軍人たちは、米飯に肉のスープはもちろん、さまざまな土産物を下賜され、最高の待遇を受けてきたが、今回は、トウモロコシすらきちんと支給できないほどに状況が劣悪で、軍人たちの不満は爆発寸前だった。
軍隊の祭りと言うべき閲兵式が飢えのせいで中止となり、不満が危険なレベルに達して今回のイベントが迷走したという可能性が提起されるほどの「飢え」。
<急激な経済悪化と食糧難で、人民軍を「栄失軍(栄養失調の軍隊)」や「強栄失(強い栄養失調の軍隊)」と呼ぶ事態にまで至っている。
金正日総書記は軍隊と銃隊を最も愛したが、人民軍の忠誠度は地に落ちている。
元軍人のある脱北者は、「現在服務中の人民軍兵士の大部分は、1990年代後半の食糧難で親兄弟を葬った痛みを抱えている」と語った。
今でも大部分の兵士から聞こえる声は「親兄弟がひもじい思いをしている」というものばかりで、若い軍人の体制不満は想像以上に深刻な水準にある。
この脱北者は、「軍人が体制に対する希望を持たず、大多数は外部の情報に飢えており、軍隊内で韓国の映画を見たりラジオを聴いたりすることも1度や2度ではない」と語った。>
「人道支援」の名の下に日本始め自由諸国から掻きよせたコメなど食料品が実は庶民には一切渡らずに全部が人民軍の食料になっているとは以前から言われてきた事。
だからこちらは人民餓死しても軍と名の付いた人民は出た腹を撫でているのかと思わせられてきた。だが軍人も飢えているとは穏やかではない。
辞書には「腹が減ると腹が立つ」という諺がある。「人間は空腹になってくると、いらいらし、何に対しても怒りやすくなるということ」との説明が付いている。人民軍は怒りやすくなっているのではないか。
人民軍の訓練が燃料不足で軽減されていると言う観測がかなり前から伝えられていたが、軍人たち自身が腹をすかせているという推測報道に接したのは、初めて。当に「腹が減っては戦ができない」。
The mill stands that wants water.
水不足の水車は動かない 腹が減っては戦(いくさ)が出来ぬ(旺文社『成語林』)。
腹が減っては・・・の諺に付いての興味ある解説に接した。岩波書店の『岩波 ことわざ辞典』である。時田昌瑞著、初版2000年10月18日。時田氏は1945年生まれ、早稲田大学文学部卒、ことわざ研究会会員。
腹が減ってできないのは戦争ではなく「仕事」のこと。武士の間で生まれた諺では無い疑いがある、というのである。
時田氏によれば「腹が減っては戦ができない」という言い方は明治以前には見られず、ただ、江戸末期の脚本『与話情浮名横櫛(よわなさけよこなのうきぐし)』(序幕)に次のような科白(せりふ)があるというのだ。
駕籠乙「なァ棒組、この中(うち)ちょっと遣(や)って来(き)ようか」ト飯を喰う思い入れ。駕甲「ちげえねえ、腹が減っちァ仕事は出来ねぇ、この中に遣って来ようか」と「戦」ではなく「仕事」の形の例がある。
そこで時田氏は、しかし「仕事」では当たり前すぎて印象が弱い。諺特有の誇張の技法を採るならば、「仕事」から「戦」へと発展したものと見るほうが当っているのではあるまいか、と結んでいる。
国際政治を解説した先輩の文章を「国語の時間」にしてしまった、ご寛恕の程を。
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2296 腹が減っては・・・ 渡部亮次郎

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