竹中平蔵は小泉改革が色あせてゆくのを忸怩たる思いで眺めている。麻生太郎らのバラマキも辞さないような「財政再建よりも景気浮揚策を優先」という主張を苦々しく思っている。小泉改革を事実上リードしてきたのに、規制緩和、自由化、競争促進という改革派の竹中の政策が公然と否定されてきたのだ。
改革派の本家は米国である。法律に抵触しなければなんでも自由な国で、たとえば連邦政府は権限を盾に米市民の電話・電子メールを米国家安全保障局(NSA)に傍受させ、訴訟になっている。
貧乏人に破綻必至の高利のインチキ「サブプライム」ローンを売りまくるのも自由で、片や1日100万円の高度な医療を受けられる人もいれば、虫歯で医者にかかれない人さえいるのも、改革主義のお陰である。
この、あふれる自由により米証券大手リーマン・ブラザーズが経営破綻した。それでもポールソンFRB議長は「米国の経済・金融システムは健全だ。税金を投入してリーマンを救うなどはモラルに反する」と大見得を切ったものの株価は大暴落した。金融不安は解消されず、末端の国民は物価高と雇用不安におののいている。
これが規制緩和の成れの果てで、民のカマドの煙を見れば、今は景気浮揚策こそが喫緊の課題であると政治家は判断して変心するが、学者は己の構築した理論を墨守、死守しないと「理論が破綻した」と言われて、己のこれまでのすべての栄誉、これからのすべての名誉を奪われてしまうから、変心はできないのだ。
政治家は「君子豹変、臨機応変、昨日の敵は今日の友、嫌な奴でも遠交近攻、風林火山」。
学者は「泰然自若」でなければ阿諛追従の輩として軽侮されるから、己の理論を改めることがなかなかできないのだ。竹中理論の賞味期限は過ぎた。国民生活が安定する新たな経済運営モデルを研究し、それを政治の場でぜひ証明してほしいものである。
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