2304 「日暮硯」松代藩の財政再建(12) 翻訳:平井修一

ある時、公儀(幕府)から御役を仰せ付けられ、藩の江戸屋敷から2000両を送るようにと連絡があった。相役の者が相談したところ、「この仕事は千二、三百両で済みそうです、2000両はかかりそうもありません」となり、その旨、恩田木工殿へ報告した。
「江戸表のことは松代とは違ってよく分からない面がある」と木工殿が言うと、相役の2人は「私どもが江戸在府の折に御役を経験しておりますので、ご指示があれば江戸へのぼり、よく調べて勤めを果たします」と申し出た。
●己に厳しく、他者へは慈悲の心
木工「それならば大変ですが江戸で忠勤に励んでください。幕府の御用ですから首尾よく仕事を進め、費用も無理に削る必要はありません」
2人に2000両を預けるとともに、江戸役人へは、「この度、御役の御用金2000両を両人に持たせて出府させます。万事この両人と相談の上、首尾よくお勤めください」と指示した。
両人は倹約すべきは倹約し、不足にならぬように努めた結果、1300両で済ますことができ、七百両を持ち帰った。木工殿は二人を大いに褒め上げて、真田公へこう申し上げた。
「この度、江戸表へ御用金2000両を送りましたが、両人の働きにて1300両で済ませ、このほど戻ってまいりました。褒美として両人と江戸役人へ100両ずつ、あわせて300両を下しおかれたくお願い申し上げます。
元来、700両は使ってなくなってしまうところを3者の努力で節約して残ったものであり、300両をご褒美にしてもまだ400両のお得です。こうすればますます皆が頑張り、どれほどの貢献になるやも知れません」
真田公も大変ご満足で、3人へご褒美を下された。3人とも大変ありがたがり、それ以後は今まで以上に精勤した。まことに君、君たれば、臣、臣たりである。
木工殿はご政道に心を配るのみならず、信心を第一にし、真田公にもそれをお勧めしているが、日課の念仏を唱えて後生の菩提を願うのみならず、僧侶を招いて先祖を供養することも珍しくなかった。
僧侶が見えたときは長くとどめて饗応した。その仔細を尋ねると、こういう事情があった。
木工殿の家では、平素は家族のみならず家来もご飯と汁のみという粗食であるが、お客様がおられる時は「ご相伴」ということで、家来や家族も同じ料理を食べさせていた。このために「お客様が来る」となれば、家内中が皆々大喜びで、お客様を留めおいて饗応するのだと言う。
木工殿だけは精進料理だが、お料理は魚や鳥をふんだんに使い、「お客様が三菜(おかずが三品)ならば皆の者も三品を食べなさい」と毎回言っていたと、親しい人が見聞している。
まったく万事に気配りし、慈悲心深く、類希な仁者である。(次号完結)
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(9月2日現在2233本)

コメント

タイトルとURLをコピーしました