2317 麻生VS小沢の歴史的総力戦だ 花岡信昭

自民党総裁選は麻生太郎氏が圧勝する勢いのようだ。すでに「麻生新政権」を前提としての人事構想も出回りだした。一方、民主党代表選で無投票3選を決めた小沢一郎氏は自身が出馬する選挙区を地元の岩手4区から「国替え」する意向を示すなど、来るべき総選挙に向けて総力戦の構えだ。
野党第一党が政権奪取の可能性を秘める総選挙は、55年体制以後、初めてといっていい。55年体制は自民党と旧社会党の2大政党時代の雰囲気を持ってはいたが、実際には、社会党はほとんどの選挙で総定数の過半数を超える候補者を擁立できなかった。はっきりいってしまえば、社会党は「野党第一党」の座に安住していたのである。
もっといえば、「国対政治」といわれてきたように、自民党と社会党は水面下での談合・なれあいを演じてきたといって過言ではない。それが村山「自社」政権誕生の裏事情であったことはいうまでもない。
日本政治が初めて体験する事態が訪れようとしている。自民・公明の与党と民主党を中心とする野党という2大政治勢力がぶつかり合う構図だが、自民党側が勝てば「麻生政権」、民主党側が勝てば「小沢政権」となる。小沢氏については、一時、「仮に政権を取っても、別の議員を首相にするのではないか」と言われ、岡田克也氏らがその候補として予想された時期もあったのだが、いまや小沢氏は「自分がやる」と明言している。
こういう「政権選択選挙」の構図も日本政治にとって初体験である。宮沢政権崩壊で発足した細川連立政権は、選挙前から予想されたものではなかった。あのときの総選挙では自民党は過半数を割り込んだものの第一党の座は死守した。日本新党、さきがけとの連立でしのげるのではないかと自民党側に一瞬のスキが生じ、小沢氏が8党派をまとめて3番目の勢力であった日本新党の細川護煕氏を首相に担ぐという離れ業を演じた。
議院内閣制の先達である英国の選挙と酷似した構図になる。英国の場合は、保守党、労働党が対決し、勝ったほうの党首が首相になる。「麻生首相」か「小沢首相」かを選択するという点では、首相公選に近いイメージをも生むことになる。
日本政治にとって歴史的意味合いを込めた一大決戦なのだ。結党以来の危機に直面した自民党側が企てているのは、総裁選と総選挙を連動、一体化させる作戦である。
いまのところ、22日の総裁選投開票で新総裁を決定、24日に臨時国会召集、首相指名選挙、組閣までやってしまい、その後、所信表明演説と代表質問を行う程度にして、10月初旬、衆院解散に持ち込む構えのようだ。早ければ10月26日の総選挙投開票といった日程も喧伝されている。
これに対抗する民主党の小沢氏にとっては、政治生活の「最終戦争」となる。ここで敗北したら政界引退という説も流れているほどだ。華々しい自民党総裁選に埋没しないよう、あらゆる仕掛けを打ち出している。
民主党は12日、第一次公認187人を発表したが、小沢氏は自身について公認名簿から外すように指示した。選挙戦中も地元に帰ることのない小沢氏は、岩手4区では圧勝してきているのだが、あえて別の選挙区から出て必勝態勢の象徴としたい考えという。
太田昭宏・公明党代表の東京12区、あるいは与謝野馨氏の東京1区、小池百合子氏の東京10区、小泉純一郎元首相の神奈川11区などが「国替え」候補として想定されているようだ。どこへぶつけるか。ぶつけられた側は比例の単独1位にでもして、救済措置をはかるか。これをやったら「逃げ」と見られて、選挙戦全体に響くことにもなる。
さらに小沢氏が繰り出したのが、国民新党との合併構想である。郵政民営化見直しで国民新党と合意し、その勢いで「吸収」してしまおうというわけだ。国民新党内部には、いずれ自民党に戻るまでの時限政党という思惑もあったのだが、個々の議員にとっては、選挙のことを考えると、民主党候補と競合するのは避けたいという思いが強いのも事実だ。
小沢氏はその「弱み」をついたのである。合併すれば民主党側の候補は出さないということになれば、これは国民新党議員にとっては魅力的である。
その一方で、民主党離党組らによる「改革クラブ」発足や平沼赳夫氏の「新党」構想もある。平沼氏は国民新党や改革クラブも含め、郵政造反落選組の選挙母体としての新党構想を練っていたようだが、小沢氏とのツバ競り合いにどう立ち向かうか。
改めて衆院総選挙の全体構図を概括しておくと、小選挙区300、比例代表(11ブロック)180、計480議席をめぐる戦いである。過半数は241となる。現在、自公与党が3分の2を占めているが、この維持は自民党も無理と踏んでいる。自公で過半数が自民党の最低目標だ。民主党の現有議席は114。倍増させても過半数には至らないのだが、昨年の参院選1人区で圧勝したことの再現となれば、小選挙区選挙のことだから、結果は分からない。
分かりやすい構図にするために、ざっくりとした感覚でいうと、公明党30、共産、社民、国民新党そのほかで30と見ていればいいのではないか。残り420を自民、民主で争うことになる。この半分を自民が取れれば、公明とあわせてかろうじて過半数ラインに達する。
同様のことは民主党にもいえるのだが、その場合、共産党との連携が必要になる。共産党は候補を絞り込む方針で、候補を立てない選挙区の共産票は民主候補にかなりの部分が上乗せされる可能性が高い。民主党が好成績をあげた場合は、事前の選挙協力がなかったにせよ、「共産党のおかげ」ということになる。
だが、民主党幹部のだれに聞いても、共産党との連立政権は否定する。それでは、民主党側も自公与党も過半数に達しない場合、どういうことが起きるか。自民、民主のいずれが第一党になるかによっても対応は違ってくるが、双方に相手の一部を引きずり出して多数勢力を形成しようという思惑が存在している。
政界の流動化・再編の動きは総選挙前から始まるのだが、選挙結果によって、さらに加速される可能性が濃い。自民、民主が入り乱れた攻防戦だ。小沢氏が国民新党に狙いをつけたのも、そうした展開を予想してのことだ。
双方が過半数に達しない場合、もうひとつ想定しておかなくてはならないのは、「大連立」の再燃である。昨年の「福田・小沢合意」のさいは、国民にも大連立の意味合いが十分に伝わっていなかったきらいがある。
55年体制時代の社会党は「自衛隊違憲、日米安保破棄」を主張していたが、民主党の基本スンタンスはまったく違う。大連立によって、年金、医療、介護といった福祉政策や消費税増税、自衛隊の海外派遣を含めた外交安保政策などに一定の道筋がつけられれば、日本政治は「空白の15年」などといわれた混迷期を一気に取り戻せることにもなる。
大連立期間は衆院任期である4年間だ。任期満了が近づけば、小選挙区制のもとで雌雄を決しなければならないのだから、再び2大政治勢力に分かれることになる。大連立の間に「完全小選挙区制」を実現させておけば、いよいよ2大政党時代が現実化していこう。
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