2346 米ポピュリズムの陥穽 宮崎正弘

米国はポピュリズムの罠にふたたび陥没したか。ウォール街救済プランを下院共和党が葬り去り、市場は大暴落を再演した。
意想外の出来事?
小誌でも直前に指摘したようにポールソン財務長官とバーナンキFRB議長の市場救済案は共和党ネオコン、宗教右派が強く反対していた。なぜウォール街高給取りの失敗を、国民の税金で補填する必要があるのかという怒りの声がある、と。
ノーベル経済学賞に輝くジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学教授)は言った。
「この毒入り担保物件を買わせようとは、まるでウォール街にファインアートの展示会が出来る」。
ポールソン財務長官とバーナンキFRB議長が作成した救済プランは7000億ドルの財政出動だった。
スティグリッツは続けた。「これは再建案ではなく、不良債権を削り、混ぜあわせ、再合成をはかるもの。修繕でもなく、再編でしかない。誰が帳尻を埋めるかといえば、それは納税者である。
そのまえに四つの大きな問題がある。第一は金融機関それぞれが不良債権をかかえ、お互いに誰もがカネを貸そうといていない。第二にブラックホールの不透明性、第三に住宅価格はまだまだ下がるだろうし、第四に決定的に市場にはすでに信用が欠落し、市場と国民との間に信頼性のギャップが生まれている」(ネイション、9月26日)
議会リーダーは、この点を軽く見ていた。
ホワイトハウスも財務省も議会指導者も与野党を問わず読み違え、“倶楽部”の決定を急いだ。(この場合の倶楽部とはエスタブリッシュメントのなれ合い社会)。
なぜなら、たとえ在野やネオコンの不満が大きくとも、たとえ、国民の負担がひとりあたり2000ドルの犠牲を敷くことになろうとも、ウォール街の血脈を絶やせば、被害はもっと増えるからだ。
下院議長ナンシー・ペロシも妥協的だったし、次期大統領レースを争うマケインもオバマも救済案に原則賛成していた。
▲都市部いがいの国民の意見を代弁した共和党の反対議員
結果は208vs228で否決とでた。
内訳をみると共和党の133名が反対(賛成は65,欠席1,民主党は140名が賛成、反対は95)、しかも、反対議員の選挙区を概観すると(NYタイムズにカラーで地域別反対議員一覧がでている)、中西部と各地の農業地区、キリスト教ファンダメンタリズムの盛んな地域で、むしろ都市部はほぼ賛成に回っていることが判明する。
「次に予測される事態とは“不確実性”だけである」とNYタイムズはかいた(9月30日付け)。
市場は議会の結果に衝撃を受けて、87年ブラックマンデー以来最悪の下げとなった。778ドルもの落下は率になおすと約7%(正確には6・98%)。市場は時価評価に換算して1兆2000億ドルを一日で失った。
このウォール街暴落の衝撃は世界に飛び火し、とくにアジア各国の株式が連鎖暴落した。日本も例外ではなかった。
ビル・グレイダー(元ワシントンポスト編集委員、作家)が書いた。
「この議会の否決が意味することは、緊急事態を制御できる米国の憲政上の指導者に与えられた能力を議会が損壊したという事実だ。そして“倶楽部”の決定は、議会指導者と経済指導者の{ボス交渉}であり、つまりボス交の結果をさらりと吹き飛ばし、ウォール街のいやらしさに対しての国民の不満があらわれたのだ。
そもそもポールソン財務長官とバーナンキFRB議長の救済案は台風被害に遭ってから台風保険に加入しようかというものであり、さらにどの金融機関が生き残れるか、倒産するかの生殺与奪の権利をポールソン財務長官がもつという博打性をも吹き飛ばし、要するにこれは政治経済システムへの反撃でもあった」と。
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