全米一の投資家ウォーレン・バフェットが乾坤一擲の賭けにでた。ゴールドマンサックスへ50億ドル、GEへ60億ドルの投資。
先駆けて血の海へ飛び込み、大胆にして犠牲をおそれず、新しい血路を開く。
よほどの勇気がなければ、誰も真似の出来ない行為である。世界一の投機家ジョージ・ソロスはリーマン・ブラザーズへの株投資で失敗し数億ドルの損出をだした。
M&Aで日本にもやってきて小糸製作所に仕掛け「黒船来航」と騒がせ、全米有数の乗っ取り王といわれたブーン・ピケンズも衝撃的損出を更新し、低迷した。
ピケンズはメサ石油会長を兼ね、暴騰した原油先物、商品デリバティブに果敢に投機資金を投入したが、原油価格の大下落によって十億ドルを失った。このうちの2億7000万ドルは自己資金だった。メサ石油は84%の株価下落に陥った。
米国のカブヤたちは逃げた。
リーマン・ブラザーズへの前会長ファルドはコネチカット州に大豪邸を構えるが、倒産直前に自社株を売却したインサイダー取引の疑いをもたれている。
ファルドは仇敵ゴールドマンサックス会長からブッシュ政権入りしたポールソンと犬猿の仲だった。だからポールソンはリーマン・ブラザーズを救済しなかったと囁かれた。
次に何が起きるか、近未来どころか明日の見通しが出ない。
米マスコミには近未来の「不確実性」を、ともかく建設的曖昧さが訪れることだろうなどと書いた(Constructive Ambiguity)。
これでは何のことだか分からない。
一般投資家は指標を失い、何をして良いか分からない。狼狽が続き保有株と債権を投げ売り、ともかく資金を手元におく行為を取る(キャッシュポジションを高める)。
この結果、世界的におきている事態とは資金不足、運転資金がなくなり、カネの貸し手がいきなり市場から消えてしまった。
これほどの世界同時株安と金融危機のリスクを目撃しながらも、一方で個人金融資産はうなるほど堆積されているのだ(手元資金不足に悲鳴をあげるアメリカ企業の実態は、日本のバブル破綻後期とはまったく逆で、あのとき日本にはカネの貸し手がいても、借り手がいなかった)。
危機はむしろ深化している。危機は地下に潜った。銀行や保険会社への取り付け騒ぎはヴィジアルにはあらわれない。だから映像にならない。
事実上の取り付け騒ぎは、コンピュータネットワークのなかで起きている。
つまり、当該の銀行や証券会社へでかけて取り付けの列に加わらなくても、近くのATMから現金をおろすことが可能、eバンクならコンピュータの操作だけで資金をA口座からB口座へ、いとも簡単に移動できる。
資金が不在となって、日欧は緊急に連携しドル資金の貸し出し態勢を急ごしらえで発足させ、とくに日銀が主導権をとって、資金供給を続ける。ドル資金である。
じつはリーマン・ブラザーズもAIGも“黒字倒産”である。突如、運転資金が不足して、どうにもならなくなったのだ。
その資金不足の衝撃と余波が米国の大手メーカー、老舗名門企業を襲った。GMが秒読み状態、かつて世界一のエクサレントカンパニィと賞賛されたGEまでが、資金不足に陥った。
現に日産・トヨタ・ホンダは全米での販売台数を前年同期比で35%-26%もの激減ぶりを示した(2008年10月2日速報)。
乾坤一擲の賭にでて、未来は大丈夫、アメリカ経済は安定して維持されるだろうと自身の判断を満天下に明らかにして、自らの行為をもって示した人物がウォーレン・バフェットだ。
全米最大の投資企業「バークシャー・ハザウェイ」を率いるウォーレン・バフェットはビル・ゲーツトと組んで世界最大の慈善団体に寄付をしたことでも知られるが、さきにゴールドマンサックスへ50億ドルの出資に応じると発表したばかり。
今度はGEへ合計60億ドルの増資を決断した(GEは総額180億ドルの増資、のこり120億ドルを一般投資家から集める)。
闇に一条の光が見えた。ところで、日本でこれほど度胸を据えての投資行為を敢行できる人、いますか?
<< 短評 >>富坂聡・司会構成『中国官僚覆面座談会』(小学館)
これは中国の軍、外交部など中国の現職官僚数人の覆面座談会で、行われた場所は北京、座談はグループ分けで、しかも三回以上にわたったという。
三部構成の裡の第二部以下は、『週刊新潮』に分載されたが、それを大幅に書き込み、新たに第一部を語りおろしのために北京へ司会と本書の構成を編んだ富坂氏は赴いた由。
小生の知らない情報がいくつかあった。
温家宝が四川省の地震被災現場に急行したが、犠牲が次々とでる現場で、あまりに軍が動かないので携帯電話を投げつけて烈火のごとく怒ったという話は聞いていなかった。
でも、人殺しの訓練をしていても災害救助の訓練をしたこともなく、解放軍には救助用の機材もなかった。素手で鉄骨やコンクリートを除去したため、犠牲は増えるばかりだった。
しかも温家宝は行政のトップであっても、軍のなかで、いかなる地位もない。軍事委員会主任は胡錦涛である。次世代を担う習近平とて、軍事委員会副主任でもない。軍は胡の命令がないと動かないのだ。
本来、党に従属するはずの人民解放軍、それが党のトップの言うことを聞かないと言うのだから四川省大地震は中国のもつ大いなる矛盾をも露呈させたのだ。
また官僚達がチベット鎮圧部隊が四川省の奥深き被災現場にそのまま、救出にまわったという話は、偶然の結果でしかなく、しゃべった官僚に作為があると思える。
地震の現場で地中にうまった銀行の金庫が襲われていたという噂も、官僚達が公然としゃべるという秘密に対する感覚の変化が面白い。
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2354 ウォーレン・バフェットが乾坤一擲の賭 宮崎正弘

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