2377 マネーゲームが世界を壊した 平井修一

いつも不思議に思うのだが、人は災難が近づいても「逃げ出すよりも呆然と座視する」ことが多いようである。自分もその傾向にある。
昭和20年の東京への空襲の折、永井荷風は3月6日の日記に「市内祝融(火事)の災いを免れしところ追々少なくなれり。わが偏奇館果たして無事に終わるを得るや否や。詩集の草稿を交付す。この日警報昼一回夜一回」と記しており、心配はしているものの疎開する素振りはまったくない。
かくて3月9日は「天気快晴。夜半空襲あり。翌暁四時、わが偏奇館焼亡す」となり、荷風はそれ以後全国あちこちへ疎開し、辛酸を嘗めることになった。
世界経済は現在、大不況の入り口に向かって進んでいる。拱手傍観すれば確実に大打撃を受けることになる。小生は各国が協調して治療にあたっても米国は全治5年、日本や欧米は全治3年と見ているが、具体的な治療方法はどんなものになるのだろう。
米国の金融救済法は成立したものの、実効性が低いのではないかと株式市場の下げは止まらない。現状(容態)はどうなのか。
「日ごとに恐怖と不安が増している。米国債を除いてすべての市場で流動性が完全に不足している」と米国資産運用会社(ブルーグバーム6日)。経済の血液である金が流れていかないのだ。金を貸したら返してもらえないと不安なのだ。
「いまや投資銀行自体が巨大なヘッジファンドだといっても過言ではない。・・・そのデリバティブの残高は2007年6月末時点で516兆ドル(約5京4000兆円)に達した。世界の国内総生産(GDP)は約54兆ドルだから、いわば実業の世界の実に10倍近い虚構の世界が広がっている。・・・かくして、世界経済は『混乱と大不況の時代』に突入した」(箭内昇・アローコンサルティング事務所代表、日経6日)。
投資銀行や高リスク・高配当を謳ったヘッジファンドが、投資家から集めた金、金融機関から借りた金を、不動産や企業、さらにはデリバティブ(金融派生商品)にじゃぶじゃぶ投資し、天文学的な残高規模になり、その投資のかなりの部分が不良債権化していることが明らかになってしまった。
金融工学などと言うが、仕組みを簡単に説明すればこうだ。
5000万円の住宅ローンを組む。そのローンがひと口500万円、合計14口7000万円の抵当証券に化ける。この7000万円証券をひと口100万円、合計100口1億円のデリバティブにし、「有利なマネープラン」などと称して投資家に売りまくるのである。
ところが住宅オーナーが返済できずに破産。住宅は2000万円で投売りされる。1億円-2000万円=8000万円が不良債権になる。市場価値が2000万円しかないのにその5倍の1億円が舞ったのだ。
こんな危険なビジネスにウォール街は踊りまくった。欧米も中国も同じ踊りを踊った。実体が白日のもとにさらされてみれば、その自転車操業的脆弱さが誰の目にも明らかだ。パーティは終わった(Party is over)。
夕べは美女だと思ったのが、朝陽に照らされたその姿は死神だった。パンドラの箱が開いてしまった。世界の血液が滞留しはじめ、血栓をつくり、血管が破裂しようとしている。
<アメリカにとって、金融・不動産業は今やGDPに占めるシェアが20%を超える最大の産業に成長しており、その中核を投資銀行ビジネスが担ってきた。・・・
さらに、投資銀行ビジネスの停滞は個人の家計も直撃する。周知のとおり、アメリカは証券の国、投資の国だ。家計の資産構成は投信・株式が43.2%と圧倒的に高く、現預金割合は13.9%と極端に低い(わが国は52.0%)。
今回アメリカの一般国民がサブプライムローン問題で受けたダメージは、われわれの想像以上に甚大で、今後消費や住宅建設の減退などの形で実体経済を直撃することは間違いない。
今後、わが国をはじめ世界がこの苦境から脱出するには、相当の時間とエネルギーを要するだろう>(箭内氏)
各国協調によるドル買いや利下げはいかにも対症療法的だ。問題企業への公的資金注入(一時国有化)を断行すべきである。経営陣を一新してうみを出さなければいけない。
同時に肥満症で身動きできなくなった米国産業界は人、設備、借金のスリム化を図り、政府は貿易収支と財政収支の健全化を目指すべきである。日本はバブル崩壊を乗り切るのに15年もかかってしまったが、その経験を世界経済崩壊を防ぐために大いに活かすべきである。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(10月1日現在2358本)

コメント

タイトルとURLをコピーしました