今国会で消費者庁設置関連法案が成立するとみられていたが、時ならぬマルチ商法騒ぎのあおりを受けて成立が危ぶまれている。ことの起こりは野田聖子消費者行政担当相が12年前にマルチ業界擁護とみられる国会質問をしていたことが発覚した。
議事録には「一部の悪質な例ばかりが強調され、非常にうさんくさい業界であるというものがまん延すると、一生懸命頑張っている人のやる気をなくし、新たな産業をつぶしてしまう」と残っている。
これがマルチ業界寄りの発言とされて、消費者重視の麻生政権にあって消費者行政担当相に任命した麻生首相の責任を問う声もあがっている。
微妙なのはマルチ業界と縁が深い民主党で、業界から千数百万円の献金や講演料を受けたとされる前田雄吉衆院議員は離党し、次の総選挙では立候補しないことになった。前田氏は石井副代表や山岡国対委員長も業界から献金を受けたと洩らしている。
民主党が無関係なら鬼の首でも取った様に、野田消費者行政担当相の辞任要求や麻生首相の任命責任を追及したいところだが、ブーメランの様に民主党にも責めが戻ってくる。
選挙が近いから共産党や社民党は黙ってはおるまい。マスコミも批判するところが多くなってきた。
<マルチ商法(連鎖販売取引)業界擁護と受け取れる国会質問が問題視された野田聖子消費者行政担当相は十七日、業者に購入してもらったパーティー券計十六万円分の代金全額を返還する意向を示すとともに、辞任する考えがないことを重ねて強調した。政府は「説明責任は果たした」(河村建夫官房長官)と幕引きを図るつもりだ。
野田氏は一九九六年の国会審議で、マルチ商法の規制強化について質問した際、「一部の悪質な例ばかりが強調され、非常にうさんくさい業界であるというものがまん延すると、一生懸命頑張っている人のやる気をなくし、新たな産業をつぶしてしまう」とした一連の発言は、議事録に残っていることから、発覚は時間の問題と判断。十六日の参院予算委員会で与党議員からマルチ商法への所感を問われた際に「告白」した。十七日の会見では、パーティー券代金の返還方針に加えて、質問との関連や政治献金の受け取りを否定した。
中山成彬氏に続き、知名度の高い野田氏が辞任に追い込まれれば、衆院選を控えた麻生政権には深刻なダメージとなる。与党は「大臣としてきちんと処置した」(自民党幹部)と沈静化を期待する。
しかし、麻生政権の「消費者重視」のイメージに傷がついたことは間違いない。マルチ商法業界との癒着が表面化した民主党が与党と一緒に、この問題で共産党などから攻撃されるのを避けるような動きに出れば、消費者庁設置関連法案の審議に影響を与える可能性もある。(東京新聞)>
<国会議員が国会で質問をする。それは国民から選ばれた議員の権利であり、重要な役割でもある。
国会議員は議院内で行った演説、討論について、院外で責任を問われないと憲法に保障されているのもこのためだ。
しかし、その権利を特定の業界や団体の利益擁護のために行使したとすれば、話は別だ。そこに資金提供などの「見返り」が介在すれば、収賄罪に問われる可能性がある。汚職である
1980年代の「撚糸(ねんし)工連事件」「リクルート事件」、90年代の「KSD疑惑」。金品を受け取って業界擁護の国会質問を行ったとして、与野党の議員が受託収賄罪で有罪となった過去の多くの事例をみれば明らかである。
にもかかわらず、またまた、そんな疑惑を招く国会質問である。
1人は民主党の前田雄吉衆院議員である。マルチ商法業界から千数百万円の献金や講演料を受け「(悪質な)キャッチセールスなどと一緒にされて業界は迷惑している」などと、業界を擁護する質問を繰り返していたと指摘されている。
もう1人は野田聖子消費者行政担当相である。12年前の国会質疑で「消費者ニーズにかなっている」などと、マルチ商法業界擁護とも受け取れる発言をしていた。その後、関係業者にパーティー券16万円分を購入してもらっていたことを明らかにした。
両氏とも献金やパーティー券購入と質問は「全く関係ない」と違法性を否定するが、それで納得する国民はいまい。
マルチ商法は販売組織に加入した消費者が次々に会員を増やしながら、商品販売を拡大していく商法だ。違法ではないが、特定商取引法の規制は受ける。勧誘や返品をめぐるトラブルが多発し、国民生活センターには毎年約2万件の苦情や相談が寄せられているという。
そんな問題の多い業界を擁護するような質問内容である。業界から頼まれての質問だったのではないか。献金やパーティー券購入の趣旨は何だったのか。疑惑や疑問がつきまとう。
疑惑を指摘された前田氏は離党し、次期衆院選への不出馬を表明した。選挙での民主党への悪影響を考えて「身を引いた」ということだろうが、それで幕引きを図ろうというのであれば、疑惑は一層深まる。
野田氏は「勉強不足だった」と、反省の言葉を述べたが、いまは消費者問題の担当相である。「軽率だった」で済まされる立場ではない。不明朗な関係はないと言うのなら、自らそれを証明するために説明責任を果たすべきである。
それでなくとも、業界や団体からの献金にはうさんくささがつきまとう。当事者の説明だけでなく、国会での事実関係の解明も求めたい。
衆院解散でうやむやに終わらせるようでは、国民の政治不信はさらに募る。 (西日本新聞社説)>
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2409 消費者庁設置関連法案は不成立か 古沢襄

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